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□【第八話】 パリの雨夜と忍び寄る影
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「どしたの?」

「…日本酒を切らしたのだ。拙者も付き合う。」



多分、嘘だろう。

千汐についてきたかっただけだ。

ルパンと不二子がうまく行ったのが羨ましいのだろうか。

五ェ門はボンゴレファミリーとの一件以来、前にも増して千汐へのアプローチが強くなった。



「雨なのに外出たら斬鉄剣錆びない?」

「そんな簡単には錆はつかぬ。それよりそなたこそ何故車で来なかったのだ?」

「渋滞すごいんだもん。歩いたほうが早いよ。」



パリの街は雨に弱いのだろうか。

道路の排水溝からは水があふれ出し、車道は川のようになっていた。

鳴りやまないクラクションと車の群れ。

しまいには信号機が故障して、ずぶ濡れの警官が交通整理に駆り出されていた。

歩道も人影はまばら。

千汐が蛇の目傘をさした五ェ門と2人連れで歩いても、いつものように写真を撮られることもなかった。



「今日はカメラの人こないね、五ェ門。」

「…全く、人をコスプレなどと勘違いしおって。」

「あはは。サインくださいって言ってた人もいたよね。」

「そろそろ諦めて洋装にするべきなのか…。」

「いいじゃん、カッコいいんだからさ。」



ただ単に素直な感想。

でも、千汐が言うと五ェ門には特別な意味に聞こえるらしい。

侍は「心にもないことを…」と拗ねたように言い、傘で顔を隠した。



「全く…いつまで拙者を振り回す気なのだ、そなたは…。」

「振り回すのは薙刀だけ〜。」

「茶化すな!」

「いや〜!痛い痛い五ェ門!!」

「ほう…よく伸びる頬だ。」

「五ェ門!濡れる!濡れるから!!」



道端でじゃれていたら近所の銀行の警備員に笑われた。

周囲から見れば、千汐達はカップルにしか見えないらしい。

買い物に行けば夫婦扱いで、いつも千汐は「奥さん」と声をかけられる。

20近くも年が離れているのだから親子に見えてもおかしくはないはず。

恐らく2人でいても違和感がないのは五ェ門が若く見えるせいだった。

40過ぎているようには見えないと言うと、五ェ門はまんざらでもない顔をした。



「女子と違って若作りする必要もなかろうが、ルパンや次元の奴と無茶をやる以上、老け込んでいる場合ではないからな。」

「次元は自分のこと『おじさん』って言うよ?」

「言っているだけだ。そなたに言われると傷つくぞ。」

「そういうもんなのかぁ。」

「そういうものだ。」



帰りは五ェ門に荷物を持ってもらい、代わりに千汐が五ェ門の蛇の目をさした。

相合傘の帰り道。

雨は狙ったように強くなった。

ブローニュの森を突っ切れば屋敷はすぐそこだった。

だが、公園の中は酷くぬかるんでいて、2人はすぐに足止めを喰らった。



「雨宿りしようよ。ちょっとこれじゃ帰るのきついかも。」

「うむ…そうするか。」



屋根のあるベンチで休んでいると、すぐに街灯がついた。

夕飯の準備をする時間はまだある。

だが、濃い雨雲があるせいで周囲は暗くなってきていた。



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