13番目の推命
□【第1話】 高砂
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「では、受け付けは以上です。こちら、お控えのほうお持ちください。」
【第1話】 高砂
役所での手続きが終わった時、ルイはぐったりしており、雲雀は眉間に皺を寄せたまま無言だった。
「婚姻届」を出してしまえば法的な結婚などあっさりと成立してしまう。
役所の職員の対応も味気なく、「こんなものか」とがっかりする。
…などというのは日本人同士の話である。
イタリア国籍のルイが諸々の手続きを終え、正式に日本で雲雀との結婚が成立したのは最初にイタリア大使館に行ってから4カ月も経ってからだった。
「…長かったね。」
「ホントにね。」
「これから、よろしくね?」
「ええ、こちらこそ。」
「全く…。話には聞いてたけど、こんなにめんどくさいとは思わなかったよ…。」
国際結婚、はその手続きに相当の時間と労力を要する。
大使館→外務省→並盛町の役所を行ったり来たりを何度したことだろうか…。
その間にはいろいろなトラブルも続出した。
具体的には
@対応の悪い大使館や外務省の職員に雲雀がキレてトンファーを持ち出した事が3回ほど(←それ以上はルイが全力で阻止)。
Aイタリア大使館に『ルイの戸籍を取り寄せるのが無理だ』と言われ、綱吉に泣きついてボンゴレの力でなんとかしてもらった(←何で無理だったのかは大人の事情で割愛)。
Bどちらかの誕生日を婚姻届の届出日にしようとしたら両方とも『仏滅』だった(←最終的に全然関係ない『大安』な時を選んだ)
…などであり…。
ようやくルイが『雲雀ルイ』の名を手にした頃には、季節はすっかり夏になっていた。
「これ…手続きしてる間に婚約が破談になったカップルどれくらいいるんだろうね?」
雲雀は炎天下の霞が関を歩きながら何度もそんな事を言っていた。
だが、とにもかくにも2人は晴れて正式な夫婦になったのである。
夫婦になったその日、雲雀の車が車検中であったため、2人は並盛の役場からタクシーで並盛神社のアジトまで帰ることにした。
「恭弥、お昼何にする?」
「おいしいもの。」
「…具体的に言ってください。」
「そうめんでいいよ、暑いし。」
「『記念日』なのにそうめんでいいの?」
「だって君、今夜ごちそう作ってくれるんでしょ?」
雲雀は左腕を隣に座るルイの肩に回し、くしゃくしゃと髪を撫でた。
思わず、胸がじんわり熱くなった。
この人が自分の夫。
今日から2人は他人ではなくなった。
冷蔵庫には2人で食べる夕食の材料がたっぷり買ってある。
メニューは2人の好きなものばかり。
雲雀は『記念日』の夕飯を朝から楽しみにしていた。
「お客さん、着きましたよ。」
「恭弥、私お金払ってくから先に行ってて。」
「うん。」
タクシーにはルイが残り、雲雀は先に石段を上がっていった。
アブラゼミが鳴く炎天下の並盛神社の石段を颯爽と上がって行く雲雀。
その姿を、タクシーの運転手は不思議そうに見ていた。
「奥さん、この暑いのにお参りですか?」
「ええ…そう。今日、婚姻届を出してきたから、それで…。」
「そうですかぁ…。それはおめでとうございます。」
まさか、「この上に自分たちの家がある」とは言えず、ルイは適当に誤魔化しておいた。
並盛神社の地下はボンゴレのアジトとも繋がる、自分たちの自宅兼風紀財団のアジトがある。
だが、その事は絶対の秘密である。
「これ、領収書です。帰りも乗るならこの電話番号で呼んでください。」
「ありがとう。」
「じゃ、熱中症には十分気を付けてくださいよ?」
親切な運転手には申し訳ないと思いながらも、ルイには渡された電話番号でタクシーを呼び出す予定はなかった。
普段、移動はほとんど徒歩か雲雀の運転する車だ。
仕事の時には草壁か風紀財団の他の人間が迎えに来てくれる。
ボンゴレの用事がある際は専属の運転手が派遣されてくる。
ルイはこの先使わないであろう領収書を折りたたみ、小銭入れの中にしまった。
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