緋色の欠片

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5月24日。

それは私の記念日だ。

「采架ー!一緒に帰ろう!!」

放課後の教室。

ほとんどの人が帰宅した静かな場所で

私は彼女…春日珠紀に言われた。
少々図書室に用事があった私は

そんな珠紀に断りの言葉を言った。

「珠紀、」
「ん?」

「ごめん。今日返さないといけない本があって。
先に帰っててくれない?」

あー…。と珠紀は

残念そうに眉をひそめ、
じゃあ仕方ないか、と言い

帰っていった。


「……よし、行こう。」

その姿を見送った私は、
図書室へと急いだ。


―――――――
―――――


数分後。

図書室に入ると、
カウンターの書類にクラスと名前を記入し、

本の置いてあった場所に赴いた。

そこにはところ狭しと、

妖怪の伝承についてなどの
本が並べられていた。

「………ふぅ…」

借りていた本をもとの場所に戻し、

次に借りる本を黙々と探す。


―――…ふと。

立ち止まった先には、
【妖狐について】という

見るからに古い本を発見した。

「……妖狐…、」

私は興味を抱き、手に取った。

表紙には、男性だろうか。

白い髪の毛に

犬でも猫でもない白い耳。

神社の装束のような服を纏った人が描かれていた。

「綺麗な人…」

そう呟くと。

「好きなのか?」

と後ろから声をかけられた。


「……ッ!?」

急なことに驚き、
手に持っていた本を落とす。


急いで後ろを振り返り、

見た人物にまた驚いた。


「狐邑先輩…?」

「ああ…お前は珠紀の友達か」

「はい、クラスも一緒です」

そういえば、と。

珠紀がこの前、

「祐一先輩はいつも図書室にいる」と言っていたことを思い出す。

「好きなのか?妖怪について」

「あ、はい。言い伝えとか、そういう類いのものが好きなんで…」

「………そうか」

……沈黙。

無口な人だと聞いていたが、

こんなにも会話が続かないとは…

そんなことを思っていると、

先輩から寝息まで聞こえてくる始末。

「(………私、どうすればいいんだろう。)」

できれば早く本を借りて
家に帰りたいのに。




そんな卑屈(ひくつ)なことを
思っていると





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