小説2

□キミが贈る日の名は
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「リョウマさん!
今日はお誕生日ですよね。
おめでとうございます!!」


わしっ、と彼の両手を掴んではその手ごと上下にやや大袈裟に振ってみせるカムイである。
その日を迎えた当のリョウマはというと、カムイのあまりの喜びように自分が誕生日であることなど忘れそうな勢いなのだが。
それもまたお前らしいな、とカムイに頬を緩ませてみせる。


「暗夜では誕生日を祝うため、その人物に贈り物をするそうだな。
ならば一つ、俺の願いを聞いてくれないか」

「は、はい!
私に出来ることならなんでも」


一瞬の硬直の後。
なんでもか、とリョウマは腕を組みながら少しの間考えを巡らせ。
やがて真剣な表情で真っ直ぐに彼女を見つめて言い放った。


「――カムイが、欲しい」


リョウマは着物の帯を緩めた。
前屈みになるだけで帯は自然と解け、顕になる胸元。
壁に彼女の腕の自由ごと押さえつけ。
燻る熱を全て吐き出すかのように、本能のまま彼女に口付ける。


「は、……ん……」


息継ぎの暇すら与えられない程の強引な口付け。
彼は普段こそ瞑想で、こういった念を抑えているとでもいうのだろうか。
そういえば今日はまだリョウマの日課である瞑想した彼の姿を、カムイは見ていない。


「俺だけに見せてくれ。
お前の『女の姿』を」


リョウマに言葉にならぬ返事で応えるカムイ。
ああそうだ、ここで彼に飲み込まれてしまってはいつもと変わらない。
今日はリョウマにとっても、カムイにとっても特別な日なのだ。
だから、少しだけ勇気を出して。
彼女はリョウマの着物の袖をゆるく掴んでみせた。


「あ、あのっ。
それなら一緒に湯浴みでもいかがでしょうか?」





二人が結婚してからというもの。
夫婦としての時間はあるものの、しかし白夜と透魔の王として忙しない日々を送っている。
リョウマもカムイも決して表には出さないが、二人で揃って湯浴みする時間もなかなかとれない程に。


「カムイ、恥ずかしがることはない。
俺達は夫婦なんだぞ?」

「分かってはいるんですが。
やっぱり何度経験しても恥ずかしいです……」

「そういう時はこれだ」


リョウマは石鹸を手にすると。


「背中を流すのに、これは不要だろう」


カムイの巻いていたバスタオルをごく自然に、かつ簡単に解き。
それを遠くへと投げた。
宙に舞うタオルはもちろんカムイが向いている方向とは逆へと向かい。
彼女の手が届く距離からみるみる離れて、入浴所の出入口付近に落ちてしまった。
それを見て咄嗟の出来事に動揺し、言葉を失うカムイ。


「……これはつい、理性が弾けそうになるな」


その隙にリョウマは石鹸をカムイの背中にそっと擦り合わせた。


「っ!?」

「こら、大人しくしてくれ。
ちゃんと洗えないだろう」


驚くカムイの腰を片手で抱き寄せ、彼女の後ろから頬に優しく口付ける。
するとカムイは安心したのか、観念したのか。
それっきり大人しくなった。
まるで親ライオンに咥えられた子ライオンのように、成されるがままだ。


「……もう。
リョウマさんだからいいものの……」

「なんだ?
俺だったら何をされてもいいのか?」

「ち、違い……!
ません、けど……」


俯くカムイを可笑しそうに、しかしはにかみながら、リョウマは力強く彼女を両腕で抱いた。
時間こそなかなか確保出来ないが、しかし彼女のことはこんなにも愛おしい。
この気持ちはいつどんな時でも忘れることなく止めどなく溢れてくるのだろう。


二人の長い時間は、まだまだ続いた。
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