小説2
□キミが贈る日の名は
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「マークスさんっ。
お誕生日おめでとうございます!!」
ハウス内に響いたのは、カムイの隠し持っていたクラッカーが破裂する音。
そしてクラッカーから飛び出て来た細長いテープがふわり、とマークスの肩にかかったことで。
彼はどこか懐かしさを覚えた。
この懐かしさはそう、カムイが幼かった頃に城塞で過ごしたあの日によく似ている。
「今年は妻として、この言葉を一番に伝えたかったんです」
当時のマークスの誕生日の際も、カムイは派手に祝ってくれたものだ。
パーティ用の色鮮やかなとんがり帽子をマークスに無理矢理被せようとしてみせたり。
つけヒゲをエリーゼと一緒にして、まだ見ぬ将来の彼の真似をしてみせたり。
更にはきょうだいでまくら投げをして夜更ししたものだから、翌日皆で並んでギュンターに怒られたこともあった。
「ありがとう、カムイ。
私にとってはどの誕生日も幸せだったが。
今この瞬間をお前と迎えることを出来たのが、一番の幸せだ」
「そう言っていただけると私も嬉しいです。
ついギュッとしたくなります!!」
言葉よりも先に、カムイは夫の背中から腕を回して抱きついた。
嬉しさからかいつもよりつい力がこもってしまい。
身動きがとれないぞ、と照れている様子の彼の声が聞こえたものの。
そこは都合よく聞こえないフリだ。
「……かわいいやつだ。
このまま攫っていってしまいたいぐらいだが。
ただ攫うだけでは済ませんぞ」
「どういうことでしょう……?」
訳も分からず首を傾げるカムイの隙をついて。
マークスは彼女の左手をとり、そっと口付けた。
まるで魔法でも掛けるかのように。
「カムイ。
私と、もう一度式を挙げてほしい。
場所はそうだな……、二人で旅をして探すとしよう。
長旅になるが、魔法のように刺激的で甘い時間を約束する」
「気持ちは嬉しいですが一国の王が、私欲のために国を空けるなんて……。
ふふ、国のほうはどうするのでしょう?」
「既にレオンに事は伝えてある。
予想外なことに、空いている王座に座ることを快諾してくれてな。
あいつならばうまくやるだろう」
聡明なレオンのことだ、とマークスは思った。
きっと今回のことに詳細を伝えずとも彼が暗夜王代理としての任を引き受けてくれたのも、そのためだろう。
マークスも兄として誇れる弟である。
「供もつけずに旅など、王族としてはあってはならぬことだが。
しかしそれでも私は平和になった世界でカムイだけと旅をしたい。
それに私達二人の時間のためだけにわざわざ人払いをするのもな」
その、なんだ……、と言葉を濁すマークスに、カムイは口元を覆って穏やかに笑ってみせた。
「マークスさんったら意外と恥ずかしがり屋なんですから……」
「なっ。
それはお前だろう」
「いいえ、マークスさんのほうです。
暑くもないのに額に汗をかいてますよ?」
「む……」
ではこうすればいいか、と続けて彼はカムイの身体を柔らかなベッドに押し付けた。
彼女の耳のすぐ横に両手をつけば、彼女は上目遣いで突然の出来事に焦ったように彼を見上げる。
マークスは本気だった。
――が、彼女の少し不安げな表情を見ると、そのことよりも彼女を抱きしめて安心させたいという衝動のほうが勝った。
「旅の最中はちゃんと心の準備をしておくんだぞ。
私もあまり長くは保たん、なので今はこれで我慢だな」
二人で少し大きめなベッドに寝転んで、両者の脚を絡めた。
それは言葉にするよりも明確で、だが二人の付き合いだからこそ分かるサインであって。
『好きだ』と敢えて言葉にしないのが彼らしい愛情表現だな、とカムイは幸せに満ちた表情でそう考えていた。
「でも今日はマークスさんの誕生日ですから。
私もいつもよりちょっとだけ頑張ります」
「…………!?」
「ご馳走を作るのを、ですけど」
「あ、ああ……そうか。
ありがとう、カムイ」