小説2

□夏の音
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「はあ……」


放課後の教室。
エリーゼは深くため息をついた。
何故こうも迷ってしまうのか。
自分自身の中で考えがさっぱりとまとまらない。
先程から次々と思い浮かんでは、泡のように破裂して消えてしまう。


「……さっきからため息ばっかりだね。
うるさくて仕方ないから、聞いてあげないこともないけど?」

「あっ、タクミさん」


彼と面と向かって話すのは初めてだろうか。
しかしどうにもエリーゼは彼に親近感を覚えていた。
彼女の兄、レオンとタクミは通ずるところがあるのだ。
皮肉を言いながらも手助けしてくれようとするところは特に。


「こう、ね。
テストが終わるとやりたいことで溢れてこない?
ぱーーっと色々出てきては、結局は体が一つだから全部出来ないというか」

「試験前は空気が張り詰めているからね。
その代償として今、エリーゼ王女は一気に解放されたいと思っているんじゃないか?
試験中不満を抱えていた証拠だ」


エリーゼが腕を大きく動かしながら身振り手振り説明するのに対し。
タクミは腕を組んで冷静に彼女の状況を分析する。
真っ先に否定をしない辺り、どうやらタクミはエリーゼの相談に乗ってくれるらしい。
決して距離は近くはないが。


「ねえタクミさん。
あたしね、もっと白夜の人と仲良くなりたいよ!」

「……はあ」


今度はタクミがため息をつく番だった。
エリーゼに背中を向け教室から出て行こうとする彼にワープの杖を構え、強制的に彼を教室へと引き戻すが。


「敵と仲良くして、僕達に利益があるわけ?」


もはや諦めたのだろう。
タクミは教室から離れずに真摯にエリーゼと向き合うものの。
その目は猜疑心で一杯だ。


「あるもん!
それをあたしが証明するんだから!」

「へえ。
具体的にどうするの?」

「明日の放課後に、あたしたちの別荘に来て!
そこでわかってもらうから」

「罠かもしれないだろ」


いつまでも納得しない様子のタクミの腕を無理矢理掴み、エリーゼは廊下を歩み始める。


「んもう!
わかったら今日は帰るんだからね!」

「僕も一緒に帰るのか……」


言葉では嫌そうに、しかし抵抗しない彼を横目に彼女は校門まで歩き続けた。
そこでそれぞれの岐路につくためようやくタクミは解放される。
そしてじゃあね、と大きく振られた腕に少しだけ笑い掛けた。
また会えるといいんじゃないか、と。
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