小説2

□PRESENT FOR YOU
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※5ページから『運命の分岐点』。
プロローグの中から隠されたヒントを頼りに進む道を選んで下さい。





新たな希望の国。
白夜王国、そして暗夜王国を繋ぐ架け橋として独立したその王国の王座に彼女は座する。
彼の地の名はようやく口のすることが叶うようになった――。
透魔王国である。


「……」


彼女は人知れず両膝を抱えて謁見の間を膝の隙間から見渡す。
いつ見てもここは、広い。
がその広さ故に壁や床の無機質な質感がギラリと怪しく輝き。
より一層彼女自身の孤独感を際立たせる。
暗夜の城塞にいた頃はあんなにも暖かい気持ちで、笑顔が溢れていたというのに。


「皆さんに早く会いたいです」


ならばと彼女はこの空間を作り変えるため人を招くことにした。
というのもまずは白夜と暗夜からそれぞれ招いた人物からアドバイスを聞こうとしてのことだ。
彼女は、この静かな空間が華やかなになる瞬間を今か今かと待ち構えていた。
その顔は僅かに微笑んでいる。










「は、はあ!?」


少年のやや驚きに裏返る声が彼の私室に響いた。


「ですから。
レオン様も幼い頃のクリスマスに手紙くらい書いたことありますよね!
純粋なる心を抱きし、将来艱難辛苦が待ちうけるであろう迷える子羊。
そしてそんな彼らの背を押すかのように瞬時に休息の場に舞い降りては輝かしい謐を残し、立ち去って行く赤の戦士に……」

「ああ、『彼』のこと」


レオンは小さく息を吸い、顔に上がりかけていた熱ごと吐き出した。
幼い頃の淡い記憶をまさか臣下達の目の前で思い出してしまうなんて。
不可抗力とはいえ、なんという過ちを犯してしまったのだろう。


「おや?
レオン様、まさかとは思いますが。
ナニか違うことでも考えていらっしゃったのですか?
せっかくの聖夜だというのに肝心なトコロを隠すなんて、なかなかイケないことをしていらっしゃる。
是非そのお口からちゃあんと聞いてみたいものです……」


しかしオーディンはともかく、こういうことに敏感なゼロがやはり食らいついてきた。
レオンは兄の血を継いでいることを意識しながら眉の間に力を込め。
そして言い放った。


「お前たち、顔が近いよ。
僕からあと半径0.5メートルは離れろ」


すると臣下の二人はそれぞれ違った笑みを浮かべながら主から離れた。


「はーい!
ごめんなさーい!」

「……ご命令とあらば」


そして忠実に命令を守るため二人はレオンの私室から軽い足取りで出て行く。
どこかその後ろ姿が楽しそうにも見えたが、少年はそんなことなどお構いなしに羽ペンと紙を手に取った。


「まあ、悪くないかもね。
これを届けるために『彼』になるのも」


手紙は彼女に宛てて。
だが赤の戦士になるのは、他でもない自分自身なのだと。
レオンはそんな子どもじみた考えをする自分に笑ってみせる。
こんなことを考えさせられるのも、この世界に彼女がいるから。
そして彼女を近くで見ているからこそ、彼女の影響を少しばかり受けた自分がいるからなのだろう、と。
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