小説2

□僕のオトコゴコロ
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――まただ。


少年は歯をきつく食いしばり、彼女から目を逸らす。


頭ではわかっている。
今は白夜、暗夜で共に手を取り合い巨大な敵に立ち向かう時なのだと。
そして命を守るため、また敵を討つためには仲間同士で鍛錬を重ねる必要があることも。
ああ、分かっているさ。


しかしこうも同じ光景を見ることになると少年の気も立ってしまうもの。
決して彼女にその気がないのは明らかなのだが、問題はそこではない。
彼女と話す彼にその気があるものなので少年としてはそれが悩みの種なのである。


「もういいだろ、行くよ」

「あ、ちょっとレオンさん!!」


レオンは彼女の相手をしていた彼に見せつけてやるつもりで女性の肩に手を回し。
強引にもその場から離れようとするが。
彼女は先程の彼に振り返ると綺麗に腰を折り、柔和な表情で小さく手を振った。


「今日はありがとうございました。
やはりあなたは弓の教え方が上手くて、頼りになりますね」

「……カムイ」


少年はカムイの腰を引き寄せ、今度こそ逃さないとばかりに歩き出す。
いくら鈍感な彼女でもレオンの強張った表情を見、彼の手に伸ばした手を引っ込めた。
沈黙が支配する空間を進みやがて二人はレオンの天幕へとたどり着いた。


「久しぶりだね、二人きりになるのは」


天幕に揃って入ると少年は本棚から数冊を引き抜き、机上に並べた。
その顔からは先程の表情が嘘だったかのように消えており。
カムイはその様子に違和感を覚え彼の顔をまじまじと見つめる。


「君から借りた本だよ。
まさか僕が恋愛小説なんて、と思ったけど。
読み出したら止まらなくてね。
カムイが気に入るだけあってとても興味深い内容だった」

「そうですよね。
特にあの男性が雨の中で告白をする場面は――」



とカムイがそこまで言い掛けたところで少年は小さく笑う。
彼は女性の後に回り込み片腕で彼女を抱き寄せると残る腕で長い髪を梳いた。


「言葉こそ違えど、面白いくらい重なっていたよね。
僕のプロポーズと」

「あ、ぅ……」


カムイが数日前の出来事を思い出し、照れている間にレオンは彼女の手と髪にそれぞれゆっくりと口付け。
離れるのが名残惜しいと言わんばかりに頬を彼女と重ねる。


「結婚前だというのにカムイは急にクラスチェンジして、タクミ王子とよく一緒にいるようになっていたから……。
正直、不安というより嫉妬という感情に取り憑かれていたよ」

「嫉妬、ですか?」

「恋愛小説は読むくせに、自分のこととなると鈍感なのはなんでかな……」
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