小説2

□俺と王女の誓い
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彼と同じくサクラの臣下であるカザハナからはよく言われていた。
ツバキは眉目秀麗だと同じ女性白夜兵だけでなく、男性からもそのおっとりした性格から好かれているらしいと。
彼としては彼女の言葉はあまり興味のないことだった。
しかし彼女に笑いながらそんなことあるはずないのにね、と否定されたのは内心傷ついてはいたのだが。


「はあ……」


かと言ってそこでカザハナに言い返すものならば彼女の言葉を認めたことになってしまう。
なのでその場では完璧に黙っていたのだが。
こうして一人で夜道を歩いていると溜め息の一つぐらいつきたくなる。
こうして心まで完璧ではない自分を慰めるため、彼は泉の付近までやって来ていた。


「その声はツバキさんですか?」


敬語。
それに楽器が言葉を奏でたような、透明感のある女性の声。
控え目でけれどもその存在を隠そうとしない気配。
それらの特徴にまさか、と思いつつと彼は暗闇の中で目を凝らす。


「カムイ様じゃないですかー」


彼の予想は見事に的中していた。
しかしそれにしても自分達二人だけというのは珍しい組み合わせだな、と彼は思った。
彼にとっては仕える主であるサクラの姉君。
少なくとも遠い存在ではないが、かと言って王族を含む軍の指揮を先頭に立って行う彼女には距離を感じていた。


「ええ。
あの……、よければあなたの溜め息の訳を聞かせてくれませんか?
今夜は眠れなくて誰かと話していたかったんです」

「俺なんかが相手でよろしいのですかー?」

「私はあなたを選びました。
ですからツバキさん、『なんか』じゃなくてあなたが『いい』んです」

「えへへー。
そう言われると俺、なんだかカムイ様に必要とされてるみたいで嬉しいですー」


むしろ今はツバキがカムイを必要としている状況かもしれないが。
それでも彼女もまた彼を必要としてくれている。
さすがは軍の誰からも愛される存在なだけある、とツバキは思った。
今や白夜王国のいつどこで誰に聞いても彼女は期待の星であり、不動の人気を保っている。
そんな彼女に話を聞いてもらえるなんて光栄なことだ。


「ですがねー。
いくらマイキャッスル内で部屋の近辺とはいえ、女性が寝間着で歩くのはよくありませんー。
男の視線を釘付けにしたいのは分かりますが、あなたはそんなことをしなくても不思議な魅力を持ってますよー?」

「そ、そういうわけではありませんが。
褒めてもらえて嬉しいです」


ツバキは今夜は冷え込むと踏んで予め用意していた外套をカムイの肩に掛けてやった。
やはり男性用の外套は女性には大きいようで。
彼女はブカブカな服に腕を通すとありがとうございます、と外套に包まるようにして礼を言った。
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