小説2

□王子と王女の弾き語り
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仲間内にも秘密の関係。
彼らの恋はそこから始まった――。


「カムイ。
毎日修行に励むのはいいことだが、何も私と共に寝る間を惜しんでまで励む必要はなかろう。
お前は女性だ、体を労ってやるべきだと思うが?」


998、999、1000……!
カムイは隣に並ぶ彼の声すら耳に入らない程、意識を剣に集中させていた。
剣の素振りがキリのいいところに差し掛かったところでようやく彼の声が、耳に入ってきた。
それはまるで巻き戻しでもしたかのよう。
そのため彼女の対応は彼が声を掛けてから時間差があった。


「私は女性ですが、同時にあなたの恋人でもありますから……。
好きなお方に寄り添い追いつきたいと思うのはいけないことなのでしょうか」


傍に用意してあったタオルで顔に伝う汗を拭ったカムイの笑顔は、まさに煌めいていた。
彼にも同じくタオルを手渡すと彼は短く礼を言い、しかし自分より先にカムイの首筋の汗を拭き取ってやる。


「ははは。
カムイは可愛いことを言うな?
だが私はお前が心配なのだ」


もし彼女が体調を崩してしまったら。
それにそこが戦場だったら、と考えるだけで彼の背筋は冷たく凍りつく。
軍の大将でもあり、恋人である彼女を失くしてしまえば彼は――。


「それは私も同じですよ。
マークスさん」


いくら彼が男性で体力があるにしてもやっていることはカムイと同じ。
いや彼女以上とも言える。
それなのに妙に説得力のある言い方と落ち着き払った雰囲気がカムイを飲み込もうとするので、彼女は飲み込まれる前にと本音を口にした。
そうすれば彼も聞く耳を持つだろうから。


「なるほど。
私が寝る間を惜しむ様子は却ってお前を心配させ、眠気を覚ましてしまうのかもしれないな」

「だから私も寝る間を惜しみたいんです。
あなたの隣だと、一番にあなたのことを見ていられるから」

「……では」


マークスは剣を鞘に収め踵を返した。
その足先は王城の中庭から彼の自室に繋がる廊下に向けられた。
そして振り返りざまに。


「これからは共に寝ると、約束しろ」


つまりは同じ時間に眠りにつけ、という意味なのだろうか。
マークスの言葉の意味を測りかねたカムイはそのように自己解釈し。


「はい、わかりました。
マークスさんと同じ時間を過ごすことが出来るなんて、私は幸せです。
たとえ離れていても心が繋がっているようで嬉しいから」

「お前は素直でどこまでも純粋な心を持っているな。
しかしその心が何を望んでいるのか……これからの見物になるな」


カムイも剣を収め、小走りでマークスの側に駆け寄る。
すると彼も彼女の歩く速さに合わせてくれて。
今日はよくやった、という声が真夜中の廊下には小さくこだました。
カムイは恋人から2、3度頭を優しく撫でられる。


二人の影は大きさこそ違えど、二人三脚でもしているかのように同じ歩みをしていたという。
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