小説2

□仕える主と心配性な執事
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それはカムイがまだ彼と恋仲になる前の話だった。
偶然にも誕生日が自分と一日違いだという彼のことを、カムイはクラーケンシュタイン城の自室にて考えていた。


彼はカムイが幼い頃から仕え共に成長し、育ってきた家族のようなものである。
年こそ彼の方が上ではあるものの、それも気にならないくらいに彼女は彼に対して心を開いていた。
彼は執事であるが主のことを心から想って仕えている。
そのことをカムイはよく知っているのだ。
思えばその付き合いはカムイが北の城塞に幽閉された時から始まっていた。


「本日からあなたに仕えます執事、ジョーカーと申します。
どうぞお見知りおきを。
カムイ様」

「わあ〜!!
わたしととしのちかいしつじさんとははじめてあいます!
こちらこそよろしくおねがいしますね」


彼が来た時のことは随分と鮮明に覚えている。
当時の自室の壁の模様、絨毯の色、暖炉の位置、食事の際に出された皿の種類まで。
しかし今思い返してみれば全く違うことがある。


それは握手した時の、彼の手の触り心地。


「ジョーカーさん、手を握らせてください」

「いきなりですね……。
もちろん構いませんが」


ある日彼の姿を見つけ、そう話を持ち掛けてみたことがあった。
ジョーカーは右手のグローブを優雅な動作で脱ぐとカムイの目の前にその手を差し出した。


「ジョーカーさんの手は頼もしくて、温かいですね」

「!!」


カムイは彼の手の感触を堪能した後にその手を自らの頬に当てた。
すると何故かジョーカーは主から凄まじい勢いで顔を背けた。


「どうかしましたか?」

「その……無防備だ、と……」

「ジョーカーさんの前で警戒する必要などあるのですか?
あなたは私の大切な仲間なのですよ」

「いえ、そうではなく」


カムイは片手を伸ばすとジョーカーの頬に触れた。
そして顔を自分の方にゆっくりと向かせてやる。
人と話す時はその人の目を見るものですよ、と付け加えて。


「いけません、カムイ様。
これ以上執事の――、それ以前に男である私に触れては。
そのようなことではいつか狼に襲われてしまいます」

「ガルーとは戦ったことがあるではありませんか」

「……そのようなあなただから、心配になるのです」


カムイが握っていた手は名残惜しそうにだが離れていき。
すぐさまグローブを嵌めてしまった。
そして持ってきていたティーセットを銀のトレイに乗せると失礼します、と俊敏に部屋を出て行った。
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