小説2

□Merry デスmas
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――今日も朝からイッシュ地方を飛び回っている。
白いドラゴンポケモン。
私が真実を追い求めた末に出会ったポケモンと共に。


いつもと変わらない、いたって普通の一日だ。


「うん、変わらないんだから。
今日は平日だし。
クリスマスとか知らないし?
レシラムと一緒なんだからッ!」

「……」


レシラムは背に乗るトウコをじっと見据える。


やや沈黙してから。





『…………一人で過ごすクリスマスって寂しいだろ?
予定がない者同士、幸せな日にしようぜ。
トウコ以外には、こんなこと言わないんだからな?』

「ありがと、レシラム。
あなたは最高のポケモンだよ。
レシラムなりに私を気遣ってくれているんだよね。
……そんなレシラムと一緒だから、私も安心して旅が出来るんだよ。
ホントウに感謝してる」


今まで頭をトウコに向けてじっと彼女を見据えていた白いドラゴンは、世界を見下ろした。


雲の切切れ目から覗く、かつてゼクロムと共に焼き尽くしたイッシュ地方。


しかし今はこんなにも美しく、そして優美なる時を刻む世界。





『…………ったく、カワイイこと言いやがって…………。
トウコに好きな奴がいること、本当に忘れそうになっちまった』





そして、こんなにも一途な少女がいる世界だ。


『オレはオマエの幸せを見届ける。
シンジツを求めるポケモンだ』





✽***✽✽***✽✽***✽





「どうだい、ゼクロム?」


背中に跨るNの声にゼクロムは目を閉じると、首を横に振り両手を広げた。


首筋から小さなカレの呟きが聞こえる。
そうかい、と短い言葉が。


『…………珍しいな。
レシラム兄さんをこんなにも見つけられないなんて。
あいつとなら嫌でも鉢合わせするのに』

「つまりゼクロムは三つ子なのかい?」

『そうなんだ。
僕たちポケモンはニンゲンと異なっていて、対のような存在で生まれるのが一卵性って呼ばれているんだ。
ディアルガやパルキアといった感じでね』


ニンゲンの一卵性とポケモンにとっての一卵性はどうやら意味合いが違うらしい。
二卵性はというと対になっていないポケモン同士がそれに分類されるようだ。


『一卵性の双子って、なんとなくもう一人がどうしているのか直感的に分かるものなんだ。
だからレシラムの存在が近いということは分かっているよ』 

「すごいね。
ボクは一人っ子だから、なんだか羨ましいな。
もう一人のことが分かるという時点で、一人じゃないからね」


ゼクロムの話ぶりからすると、残りの弟はどうやら二卵性であるようだ。
三つ子でありながらなんとも救われない存在である。


「ねえ、あれ何かな?」


デスマスが青年の服の裾を何度か引いた。
Nやゼクロムはカノジョが示す方を注意深く見つめる。


随分と遠くにいるのでNの目にはギリギリ見える範囲だったが、何かいるのは確かだ。


『………………はあ……』


ゼクロムはゆっくりと息を吐いた。


雲を切って前進するにつれ、青年の肌にはビリと電流のようなものが流れてくる。
白い息が一層白さを増し、手がかじかんできた。





『……クリスマスだからって、変な演出、してないよね……?』


ゼクロムの荘厳な、しかし優しい声が低さを増して恐ろしいものになる。
しかし相手はというと少しだけ恐怖に顔を引きつらせて見た目とは裏腹の高テンション。


『ん?
ゼクロムじゃーん!マジ久しぶり!
そんなに俺と会いたかった?
感激して涙出そう〜。
この寒い雪の中をフライイングしてーなー♪
もちろんゼクロムやレシラムのアニキたちと一緒がいいー!
つーか、ゼクロム、こええよ……』


ゼクロムは氷のドラゴン――。
真実と理想を求め、力を貸すといわれているキュレムから視線をぐいと青年に向けて小声で言った。
もちろんため息を一つついてから。


『N、こいつの相手をするだけ時間の無駄だから。
僕はオススメしないよ?』

「……そんなわけにもいかない。
ここで屈するのは、なんだか解くのを断念した計算式のように居心地が悪いんだ」

『そう?
……僕が君の意思を尊重しているのは分かっているだろうけど、Nってたまに強情なところがあるんだよね……』

「褒め言葉として受け取るよ」

『ははっ。
これだからNは飽きないよ』


キュレムは二人の会話中も黙って凍える世界でイッシュ地方を銀世界へと誘っていた。
最近になって積雪が増えたのもこれが原因なのだろう。


しかしなんと言っても目線はゼクロムに、正確にはNに注がれている。


『アニキたちがきまって自慢してくるんだよね。
Nとトウコ、二人の選ばれしニンゲンの話とかさ!
おかげでNとは初めて会った気がしないぜ〜……。
これはこれで新鮮だけどな♪』


なるほど。
どうりでNがゼクロムと話す様子をごく自然に見ていられるわけだ。


『よーするに、俺がレシラム探すのを手伝えばいいんだろ?
いいよ。
手伝う〜♪』


左右で長さが極端に異なる翼を上下に大きく動かすと、キュレムは滑空しながら空を舞った。
多少翼の重量の関係で身体が傾いているが、ゆったりと空を切る。


『僕たちも行こうか』


ゼクロムは高度を上げ、微弱なるものだが稲光を雨雲から発生させた。
これにレシラムが気付いたのなら、それを追ってゼクロムの元へと駆けつけてくれるに違いないから。





――問題ない。
すぐに見つからないからと言って、ここで折れるようなボクじゃない。


ある信念以外は、すぐに折れてしまうような脆い心。
それをより強いものにしてくれたキミに会いたいから。


なんて、今日は少しワガママな日なのかもしれない――。
キミと出会ってからなんだ、こんなふうにワガママが言えるようになったのは。
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