小説2

□Merry デスmas
1ページ/4ページ

クリスマス、ってみんな知ってる?


それは……子どもの時は毎年楽しみにしているものだよね。
赤い服と帽子を身につけたサンタさんが、子どもが寝ている間にプレゼントをくれるんだもん。
朝起きてからそのプレゼントボックスを開けると、自分が欲しかったものが入っているの。
不思議だよね。


――え?
私の欲しいもの?


わ、私なんてもう子どもじゃないよ。
だからプレゼントなんて……。


でもね。
欲しいものならあるんだ。
サンタに頼んでも、きっと届かない。
とびっきりのプレゼント!










――あちこちで鈴の音が鳴る。
見るとポケモンとニンゲンが赤い衣装に身を包み、大きな雪車に白く大きな袋を乗せ、引いている。
子ども達はカレラの姿を見つけては歓喜し、カレラの周りを囲む。
プレゼントちょーだい!と。


雪は降りしきり、イッシュ地方を銀世界へと誘う。
せっかく熱帯地域であるサザナミタウンまで赴いたばかりだというのにまた寒さに囚われることになるなんて。


寒いのは苦手だ。
かといって暑いのも得意でもないのだが。


「おにーちゃん!」


雪を踏みしめ歩いていると、急に後ろから少女の声が聞こえた。
服の裾を弱い力で引っ張るのが子どもらしい。
ボクは両膝を折り少女と視線を合わせるためにしゃがみ込んで振り返る。


すると意外にもカノジョの視線は高く、同時に浮遊しているのだと判明した。


――足は浮遊しているどころか、どこにも見当たらない。


ボクはつい大きく目を瞠った。


「……驚いた。
こんなこともあるんだね」

「おにーちゃんには見えるの?
わたしの姿が」

「ああ……。
ボクの数式にはないパターンだ」


青年の目前で浮遊しているのは確かにポケモンだ。
黒い細身の肉体に、顔ほどの大きさのある両手。
そして黄金のマスクを大事そうに抱えている――デスマス。


しかし妙なことに、マスクがまるで鏡のように一人の少女の顔を映す。


デスマスのマスクについて、このような言い伝えがある。
そのマスクはデスマスが生前、ニンゲンだった頃の顔なのだと。
ということは、マスクが映すのはまさにそういうことなのではないだろうか。


「……キミは自分がどのような状況に置かれているのかを知りながら、誰にも気付かれることなくこの場をさまよっていたのかい?」

「ニンゲンはね、デスマスとしてならわたしに気付いてくれるんだ。
でもわたしがさまよっているなんていうのは違うよ!
本当のわたしと話せる人に、あるお願いをしたかったんだ!」

「お願い……?」


デスマスは頷くとマスクを両手で持ち、青年に裏を見てみてと差し出した。


青年は自分もいずれはこうなるのかもしれないと一瞬だけ頭を抱えたい衝動に刈られたが、今はそんな思考を無理矢理脳内から追い出した。


マスクを受け取り裏返してみると、そこには銀のチケットが貼り付いていた。


デスマスは赤い目を伏せ目がちにして青年に微笑んだ。


「それはね、会いたい人に会えるチケット。
……ただではそうさせてくれないみたいだけど。
あなたにこれを使ってほしいの!」

「……アリガトウ。
大切に使うよ」





――このデスマスがチケットを使えば会いたい人には会えるだろう。
しかし。
カノジョはその人と話も出来なければ、ましてや存在にも気付いてもらえないのだ。


そんな苦しみが青年には伝わっていた。
言葉にしなくとも、青年には分かってしまうのだ。


「キミもボクと共に来ないかい?
ボクの会いたい人を、特別に教えるよ」

「いいの?
わたし、お邪魔になったりしない?」

「お邪魔って……?」


きょとんとする青年に、デスマスである少女は逆にきょとんとなってしまう。


「クリスマスって恋人同士が二人で過ごしたりするんじゃないの?」

「……なるほど、どうりで……」


周りを見れば、仲睦まじい様子の男女がそれぞれ手を繋いだりして人混みを歩いている。
クリスマスだからこそ、そんな様子が多く見られるのだろう。


恋人同士、寄り添ってのクリスマスというわけだ。


「さすがにわたしにはあの仲に割って入る勇気はないよ……?」

「……そう尋ねられても、ボク達の仲は計り知れないものだけどね……」

「え?」


なんでもない、と首を横に振る青年。
カレは続ける。


「ボクの勝手な推測だが、キミはクリスマスであっても今まで孤独に過ごしてきたんじゃないのかい?」

「う、うん」


デスマスが再び伏せ目がちになった。
どうやら図星のようだ。
正確な推測に困惑している色を見せる少女。


「クリスマスは、必ずしも二人で過ごすものじゃない。
過ごしたいニンゲンや……ポケモンといればいい。
だからキミのこれからは、キミが選んでいいんだ。
ボクはキミの判断に任せるよ」


少しの沈黙。
まるで捲し立てるかのように青年が語るので、デスマスは黙って頷くしかなかったのだが。


顔色を明るくして、少女は答えた。


「おにーちゃん!
わたしも行かせて!」


黄金のマスクを受け取ったデスマスは青年の服の裾を引っ張った。
先ほどよりも強い力で。


青年は静かに微笑み、ゆっくりと頷いた。


「……キミよ。
今日はメリークリスマスじゃない」


カノジョが今頃どうしているのか、青年は想いを馳せる。


現在はお互い事情があって再会を避けているのだが、想いはいつになっても冷めることはないのだ。
寧ろ、日に日に増すばかりで旅をしているこんな時でも隣にカノジョがいれば……とふと考えてしまうこともある。


「――今日だけでいい。
ボクが旅に出ていることを忘れてくれ」










✽✽Merry Dethmas✽✽
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ