小説2

□C
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5 【スイートデイ】


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【サンヨウシティ】





その日、とある少年は友人である3人よりも早く一歩を踏み出していた。
その一歩はトレーナーならば誰しもが目指すこの施設。


すう、と音が周りに漏れるほど深く息を吸い、そして吐き出すと共に溢れんばかりの息で言葉を発する。


「たのもーっ!!」


その言葉にすぐ施設の管理人兼統治者である青年が少年の前に姿を現した。
彼は右手で受け皿ごとティーカップを支え、左手でカップの取っ手に指を通していた。


「アハハ、元気がいいトレーナーさんですね。
では僕たちはジムの奥でお待ちしてます。
……おいしいみず、き・ち・ん・と受け取ってくださいね」

「マジっすか……。
俺ミックスオレ派なんだよなぁ」


少年に紅茶を出すと、笑顔で何のブレもなく深く礼をしジムの奥に青年は姿を消した。
飲食に来た客の接待に追われているのだろう、その足はやや速い。


どういうわけか、この街のジムリーダーは水に拘っている。





――おそらく職業病というものなのだろう。
その張本人であるデントがたった今トウヤに挑戦を受けたのだ。


ある街の人による噂だと、彼がいい茶葉を厳選して。
コーンがいい水を用意する(おいしいみずとは全くの別物らしい)。
そして最後に、ポッドがいい火加減でお湯を注ぐ。


そうして客の手元に運ばれるのは最高の出来であるティーなのらしい。





少年は紅茶にはあまり詳しくないが、ジムリーダーである三つ子の淹れたものは格別な一杯であることをその味覚に叩きつけながらカップを傾けた。


ここではこの紅茶を飲み干してからジムに挑戦するのが慣わしとなっている。
――少年は見る見る間にカップの中身を空とした。




ジム内に入るにはまずはレストラン内を通る必要がある。
少年はジムリーダーが追われるほどにやってくる客で埋め尽くされた店内をなんとなく見回す。
なるほど、もてなすのが三つ子の整った顔立ちの男性ということもあり、客は当然ながら女性が多い。





――一方で少年のようにジムに挑む為にレストランにやって来る人も多いようだ。
その証拠にモンスターボールを片手にくつろぐ客もちらほら見える。
おそらくジム戦を予約していた者たちが順番待ちしている状態なのだ。





少年はジムを前にして親友の言葉を思い返す。


「トウコとベルを待たなくてよかったのか?」


眼鏡から鋭い目を覗かせる親友。
しかし少年はおう、と歯を覗かせて明るく笑う。


「トウコもベルちゃんもポケモン育てるのに必死なんだろ?
なら、俺は俺で必死に戦うことの出来る人を見つける。


これで必死なのはお互い様だろ。な?」


理由は単純でえらく明快。
でも、だからこそ俺はジムリーダーに挑む事にした。




――みんなが頑張っている時に、一人で楽なんてしてられない。
って、その時は親友のチェレンのことまでは考えていなかったけどな。





「へえ。よく言うよ。
本当はトウコに会いたいんじゃないか?」

「チェレンもよく言うぜ。
本当はベルちゃんが好きなくせについ冷たくしちゃうだろ?」

「……全くきみには敵わないね……」





と呆れた表情を浮かべて嘆息し顔を背けつつも、チェレンの顔は少しだけ紅い。
その様子があからさますぎて、見ていて微笑ましいぐらいだ。


きっと俺も人のことは言えないんだろうな。
けどチェレンよりは恥じらう、ってか正直に言って照れる様子は無かったと思う。





――だって俺、好きな人は本気で愛してるから。
好きだ、とか愛してる、だとか。
そんな言葉だけじゃ足りないくらいにさ。


けど言葉にしたら、その言葉でしか伝えられない。
伝えるにしても、そんなに軽々しく伝えられる言葉じゃない。
そんな想いが俺の中では天秤に掛けられている。


そんな悔しさに似たこのモヤモヤが何よりも『好き』の証なんだ。





その気持ちを包み隠して、かっこ良く言えば人生損をしたくない。
フツーに言えば、俺の気持ちが隠すことに耐えられない。





男ならストレートにキメないとな。





「チェレンってさ、こういう話には素直だよな。
ベルちゃんと上手くいきたいなら、その素直さなんじゃないか?」

「トウヤは素直すぎるよ。
まあトウコが天然だから、そのくらいがいいんだろうけどね」

「ははっ、その通りかもな」





うん。
やっぱチェレンはこういう時だけは素直で分かりやすい。





ベルは誤解を生んでしまいそうだけど、そこはチェレンがいずれ自分で向かい合っていかないといけない問題だ。
俺が直接口に出していいことじゃない。


――それでも応援してるんだぜ、俺は。





どうか二人が幸せな道を歩めますように、ってさ。
なんて、柄にもなくちょっとクサくなっちまったかな。

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