小説2

□キミが贈る日の名は
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「ふーんふふ ふーふふーん♪」


カムイは上機嫌で部屋の飾り付けをしていた。
アクアがよく口ずさむ旋律が無意識のうちにうつってしまったのだろうか、カムイが暇な時はいつもこの鼻歌を自分で歌っている気がした。


「なかなか楽しい作業ですね」


彼女が上機嫌なのには理由がある。
それは今日が彼女の最愛の夫、タクミの誕生日だからである。
彼は今狩りに行っており。
彼の帰宅までには部屋の飾り付けを終える予定だ。
今朝、何も覚えていないフリをしてでも。
カムイは彼の誕生日をサプライズという形でお祝いしたかったのだ。


「皆さんどうしているでしょう。
時間稼ぎのためとはいえ……」


タクミの誕生日の準備のために、彼の狩りを妨害するという策を仲間達に提案したカムイ。
その第一部隊の筆頭はセツナとハロルドである。
あの二人ならば――。
――彼らは元から不幸な事態に見舞われるコンビなのだが。
うまくやってくれていることだろう。
とカムイが考えていると。


「カムイ、ただいま」


想像していたよりも早く戻ってきた、聞き慣れた声。
ゆっくりと開いた扉から覗くタクミの腕をカムイは驚くより早くがし、と掴んだ。


「おおおお!!
おかえりなさいタクミさんっ!」


後ろ手でそっと家の扉を閉ざし。
早く暖まりたいであろうタクミのために腕に力を込めて固く抱き着いた。
彼は彼女の普段しないような行動に少し驚きこそしたものの、カムイを抱き返した。
――その瞬間。


「うわっ!?」


屋根から雪が滑り落ち。
見事に二人へと降り注いだ。
咄嗟にカムイに覆い被さったタクミももちろんだが。
カムイも含む二人は雪まみれになり。
同時に起き上がってはくしゃみをした。
その行為に思わず笑いが込み上げてくる二人である。


「冷えるし、そろそろ家に入ってもいいかな?」

「す、すこーしでいいんです。
ここで待っていてくださいね!」


一度家に戻ったカムイはというと。
湯たんぽをタクミに抱かせて扉の鍵を閉めた。
タクミはこの当時こう思ったものだ。
ついに閉め出しを喰らうほどのことをしでかしてしまったのだろうか、と。
確かに狩りに行き、その間彼女を一人にさせたのは問題だったかもしれないが。
などと考えているうちに笑顔で再びカムイが家に入れてくれたのだが。


「これは……?」


灯された火がうっすらと照らす。
折り紙で華やかに飾られた部屋。
テーブルの上に置かれる少し不格好で、だが愛情のこもった手作りのケーキ。
それに立てられたロウソク。


「今日はタクミさんのお誕生日ですから。
慌てて仕上げたもので、少し不格好になっちゃいましたけど……」


と斜めに刺さるロウソクを指差すカムイだったが。
ロウソクの火を一息で消してください、と頼む彼女にタクミは心を弾ませてしまった。
かつてこんなに嬉しく、驚かされた誕生日などあっただろうか。


「ふう」


ロウソクの火を消すと、拍手が巻き起こる。
部屋の明かりを点けてみるとそこには白夜のきょうだい、それに暗夜のきょうだいやアクアがいて。
これは参ったな、というようにタクミは頬を掻く。


「お誕生日おめでとうございます、タクミさん」

「もう……。
僕を喜ばせるのが本当にうまいんだから、カムイは」


タクミはカムイを固く抱き締めた。
普段ならば人前でこんなことはしない、が。
今だけは自分の素直な気持ちを。
自分の最高の妻を抱き締めたいという気持ちがずっと上だった。


「大好きだよ。
僕の自慢の奥さん。
結婚してくれて、本当にありがとう」

「い、痛いですよ、タクミさん」

「あっ、ごめん……」


力加減すら忘れるほどの幸せな時間を、彼らは過ごしたという。
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