小説2

□キミが贈る日の名は
4ページ/5ページ

「ん……、どうしたんでしょう」


隣で寝ていたはずの彼がいなくなっていたことにより、少しの肌寒さで目が覚めてしまったカムイ。
薄い上着を羽織って、カーテンを捲り窓から外の風景を眺めると。
そこには同じく薄着で剣を握るレオンの姿があった。





「レオンさん。
眠れなかったんですか?」


温かいコーヒーを差し出しながら、カムイはレオンの頬に触れた。
星界といえど夜は少し冷え込む。
が彼の頬を触る限り、彼がここに来てからというもの時間はあまり経っていないようだ。
どうやら彼は剣の素振りをしていたようだ。
彼曰くその腕を鈍らせないように、とのことだが。


「目が覚めてしまってね。
もう少ししたら戻るつもりだったんだけど、起こしちゃったかな」


人恋しかっただけです、とカムイが拗ねたように返すと彼はそっか、と微笑みながら彼女の頭を撫でた。


「カムイが城塞にいた頃、僕は剣の鍛錬をしていてね。
同じ時期に鍛錬していた魔術のほうが技術的に勝っていたものだから、そちらを極めていたけど……」


そこで彼は腕を組んで小さく唸ってみせた。
やがて言いづらそうに、小さな声で続けた。


「剣を取ると、慣れるまでは身体の重心が上手く保てなくてね。
一撃の重さにばらつきがあるんだ。
かと言って兄さんみたいに身体をよく使う鍛錬は……苦手で。
正直魔術に逃げていたんじゃないかって、そう思うこともあるんだ」

「レオンさん……」


ここで否定をすれば彼が魔術を志したという事実にも否定するようで。
カムイは無言で彼を抱き締めた。
せめて、魔術の腕前は紛れもなく本物なのだとそう伝えるように。


「ちょっと潮らしくなったかな。
……まあ本音を言えば、カムイに頼られるような肉体に鍛えてみようかと思ってね」

「なんだか照れてしまいますね。
こ、こうなったら目標を決めるのがいいかもしれませんよ!」

「目標、ね」


よいしょ、とひと呼吸置いてからカムイの横で屈んでみせたレオン。
そして彼女の腰に腕を回し。
彼女の身体を肩にもたらせ、両腕で担いでみせた。
当然予想外のことにカムイは驚きを隠せない。


「今はまだこれが限界だけど。
腕力を鍛えて、必ずお姫様だっこをしてみせるよ」


さあ帰ろうか、と方向転換したレオンに、彼女はこのままで?と返すが。
彼は満悦の笑みで応えてみせた。
つまりは『今更恥ずかしいとか言わないでよね?』という彼からのメッセージである。
カムイは両手で顔を覆いながらレオンにされるがまま、行く先を任せる。
行き着いた先は彼ら夫婦の住まう家の寝室で。


「あっ」


そこで降ろされたカムイは壁に掛けてあった時計に目を向ける。
と、あと数秒で時針が12時を指すところだった。
彼女は思わず身を乗り出し、足を交互に上下に揺らしながらそれを見守る。


「カムイ?
僕と寝るんじゃないの?」

「い、今いいところなんです!」


レオンは彼女が時計を見つめる訳も分からず。
この様子では仕方がない、と心の中で呟きながらも毛布をベッドから剥いで彼女の横に座り。
二人の背中にそれを掛けた。
更に彼女を暖めるため彼女の肩を抱く。


「レオンさん、お誕生日……」


時針が12時を指す。


「おめでとうございます!!」


そう。
全てはこういうことだった。
カムイが時計を見つめていたのはつまりこれを言うためであって。
それを迎える瞬間を一秒でも逃すまいとずっと待っていてくれたのだ。
無邪気で、どこか子供らしさを感じさせる彼女の行動に彼は思った。


「こんなの、ずるい」


レオンは彼女の唇を奪い。
やがて離れつつも鼻先は互いに触れ合ったままで言う。


「愛してる、って言いたくなるだろ」
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ