小説2
□約束
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「無事かい?」
男の声がすぐ傍で、静かな夜に低く響く。
「よかった。不思議と君からは息子の気配を強く感じたんだ」
「息…、子?」
メルはゆっくりと瞼を持ち上げる。
まだ焦点が定まっておらず景色がぼやける。
やがて焦点の定まり、男の顔に目をやる。
―そしてすぐに覚醒。
「うそ…、そっくり…」
表情こそ心配する気持ちで曇ってはいるが、一目で分かった。
ベルゼの家族であると。
彼は額の目に傷があり、声色こそ違うが声すらベルゼに似ていた。
こちらのベルゼブモンは黒いジャケットを纏い、鎧らしきものは纏っていない。
彼はベルゼブモンの中でも特異の、白き両翼の持ち主であった。
「俺は、白翼(はくよく)のベルゼブモンって呼ばれてる。名前はそれ以外にないんだ。俺の息子である刻翼(こくよく)のベルゼブモンは知らないかい?右翼が傷だらけの子だ」
「んと、ベルゼのことですか?」
「ベルゼ…、確かにそんな名前で呼ばれていたらしいね。彼はメルヴァモンと世界を旅していたとか。もしかして君だったりする?」
「え、いやっ、その…」
こうも簡単に言い当てられるとはメルでさえ考えてもいなかった。
つい動揺で目を背けた。
「あれ、冗談のつもりだったんだけど。図星だったかな」
しかし彼は背けた視線の先に回り込んできた。
最高の笑顔と共に。
その顔とベルゼの姿がどうしても重なる。
彼も、こうやって笑ってくれるのなら…。
―アタシはどんなに救われることなんだろう。
きっとリリスモンのことなんて忘れて、―…。
どうなってしまうのかな。
「あの、白翼さん」
「ハクでいいよ。どうしたんだい?」
「本当の幸せって何なのかな?」
薪が弾ける音さえ分からぬほどの静寂。
正確には、時が止まったかのような感覚だろうか。
ハクは一瞬だけ眼光を湛えたが、すぐに柔かな表情へと変わる。
「それは俺にとっても、君にとっても違う。ただ…」
「ただ?」
「これは共通なんじゃないかな。互いを受け入れ、愛すること。愛されること。笑うこと。泣くこと。怒ること。―自分の気持ちに素直になること」
それぞれメルなりに思い浮かべてみる。
彼との付き合いはまだ短いものだが、当てはまることはたくさんある。
「自分の気持ちに素直になる…かぁ」
「君の様子から見るに、ベルゼはどこか遠くにいるみたいだ。彼にまた会いたいのかい?」
「もちろん!アタシが絶っっ対に助けるよ」
「助ける…?」
今まで彼女の様子を見守るかのように柔らかい表情を保っていたハクだが、その一言に眉間を皺寄せたのだった。
「まるで捕まっているかのような言動だ。よければ、君に何があったか教えてくれないか?」
「もちろん。だけどその前に聞きたいことがあるんだけど…」
「―君と一緒だったシャウトモンとガオモンのことかい?」