小説
□テイルズ学園 第7章
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「ギンヌンガ•ガップの扉が開きかけているから、魔物は存在してしまう。だからダテ学の連中はそれをいいことに、自由に操って戦わせている。いずれは扉を完全に開いて魔物だらけにさせるつもりだ」
「…僕は、姉さまを殺した人間が許せなかった。でも!兄さんのように全ての人間を殺そうとするのは分からない!だから…僕にできることを考えた。そして、それはこの学園に来て兄さんの間違いを教えることだった」
ミトスは純粋だ。
その純粋な心が兄の間違いを正すことを決めたのだ。
そして、永遠に誓ったのである。
「強いんだな、みんな…」
スタンは考えた。
もしルーティと彼がダテ学にいたとして、自分は学園を裏切ることになったら?
…決して出来ない。
それくらいかつての仲間を裏切るのはつらいことである。
シンクやアリエッタのような例外もいるが。
「みんな、聞いてくれ。近いうち本格的にダークテイルズ学園に乗り込むのはどうだろう?」
スタンの意を決した言葉に仲間たちは終始無言になる。
スタンの気持ちも分からないでもないが、ダテ学とテイルズ学園では戦力に差がある。
それが気がかりなのだ。
「…先程バルバトスが説明したな。″テイルズ学園で言う一週間はダークテイルズ学園で言う一年″だと。私たち元ダテ学はまだマシなのだが…普通の者がダテ学にいると急激な時間の加速に体がついていけず、死に陥ってしまう。そこも一つ覚えてもらいたい」
ユアンはかつてダテ学で生活していたため、あちらの時間に多少慣れている。
時間の流れが早いダテ学から、逆に流れが遅いテイルズ学園に来るのは問題ない。
だがテイルズ学園の時間に慣れてしまったヒトはダテ学に行くと急激な時間変化に体がうまく対応出来なくなる。
そのため体への負担も大きく、身体能力も普段より下がってしまうのだ。
これではますます勝算がない。
「…では、こうしよう」
クラトスが一瞬にして現れた。
やはりどう現れたのかは不明だ。
「オリジンと契約し、テイルズ学園とダテ学の時間の流れを統一する…それで勝算は増す」
クラトスは腕組みをすると、そっと剣の鞘を手でなぞるようにして撫でる。
「オリジン…」
クラースはその言葉を口にするといつも思い出してしまう。
彼は現在から115年前の過去からこの世界に時間と空間を越えてやって来た。
その原因は…オリジンの封印されているという石碑を興味本意で触れたから。
少なくとも彼はそう考えている。
15年前にこの世界に飛ばされた彼は倒れていたのだ。
…オリジンの石碑の前で。
そして飛ばされてから15年はこちらの世界で成長して、現在に至る。
「さあ、どうするのだ?」
クラトスは詰め寄るように尋ねる。
何故か顔には冷たさがうかがえる。
「いずれダテ学の人とは戦うことになるんだ。少しでも勝算が上がるなら、それにこしたことはない。みんなもそう思うだろ?」
スタンは一人一人の顔を確認する。
教師たちはただ黙って頷く。
「…承知した」
こんどはリヒターが使っていたのと同様の、おそらくは空間だけを移動することが出来る普通の魔回廊だ。
それをクラトスは出現させると回廊に消えた。
「待っている」と言い残して。
「オリジンとの契約…か。このような形でやはり精霊に頼ることになるのか」
クラースは召喚士だ。
よって、オリジンと契約するのは彼ということになる。
体全体に緊張が走るが、好奇心も負けていないほどに走る。
「ん?オリジンと契約するんだよな?ってことは…クラースと同じく召喚士のしいなも連れて行った方がいいんでない?」
「ゼロス、それは名案だけど…契約するとなったらまず精霊と戦うことになるでしょ?召喚士と言ってもしいなは生徒。危険なマネはさせないでちょうだい」
ゼロスとリフィルのやり取りを見てクラースは「まあまあ…」と割って入る。
「ダテ学が関わっている以上はどこにいても危険さ。それに…万が一私が契約に失敗しても、しいなが契約に成功することもありえる」
「そうですよ。だから、俺たちが全力で守る。そしてオリジンと絶対に契約する。そして時間の流れを統一させるんだ」
クラースの言葉を引き継いでスタンがそうリフィルに説得する。
「…妙な胸騒ぎがするけれど、そこまで言うなら仕方ないわね」
リフィルは渋々納得した。
「…やはり、お前は最初からこうなることを知っていたのだな」
ユアンが誰にも聞こえないほど小さい声で呟いた。