小説

□テイルズ学園 第7章
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「とりあえず、こんなところか?」

ユアンが教師たちの顔を一人ずつ確認する。
すでに疑問を持った顔はない。

「まあ…分からないことがあればまた俺たちに訊くといい。知らないこともあるが、いくらか力になれるだろうしなぁ」

バルバトスは頷くと椅子から立ち上がる。そして会議室の扉を静かに開けた。
そこには何人かの生徒がいた。
ミトス、シンク、アリエッタ、アッシュ、リヒター。

スタンもやって来てバルバトスの横からひょっこりと顔を覗かせる。

「どうしたんだ、みんな?何か不安なことでもあったのか?それなら先生たちに話してごらんよ」

スタンが優しく微笑む。
だが生徒たちは表情を変えないでいた。
何か見てはいけないものを見てしまったような表情で彼らは黙っていた。

「…そういうことか。まあ立ち話もアレだ。中に入ってからにしないかぁ?」

バルバトスが会議室に入るように促す。
やはり彼らは何も言わずに入る。
バルバトスとスタンは異変を感じとって会議室に残ることにした。

「…まずはこれを見てくれ」

リヒターが宙に手をかざす。
そして手に意識を集中させると詠唱を始めるのだった。

「魔よ、我が進む道を回廊と示さん。出口(ひかり)にて現せ、その空間を。出でよ、魔回廊」

リヒターがその意識を逸らしたとき、すでにそこには魔回廊が現れていた。
会議室の空間が歪み、先が見えないほど黒い空間が穴を開けた。

「魔回廊…つまり、これが使えるってことは君たちがダテ学か元ダテ学か、ということだな」

マリーは驚きながらもどこか冷静さを感じられる。
一方バルバトスやユアン、レイヴンなどの元ダテ学チームは分かっている顔をしているのだが。

「僕たちはもう違います。この学園に身を置くことにしたので」

ミトスにとってダテ学を裏切るのはつらいことでもあった。
兄のユグドラシルに背を向けたことになるのだから。

「これはまさかの事実だな。君たちもワケありってことか」

ジョニーは気にいっているウクレレの弦を軽く指ではじく。
今の空気とは不釣り合いな穏やかな音が会議室全体に響く。

「聞いたことあるぜ。俺の出身地はシデン領っていう土地なんだ。ま、そこはある一国の領土なんだけどよ。そこではこんな歌が昔流行ったそうだ」

ジョニーは空気を思い切り取り込む。
そしてウクレレの弦をリズミカルにはじき、リュートのような旋律を生み出す。

「″激しい雨に僕の 弱い心は
強く打たれ 全ての罪を流してほしかった〜″ってな」

ジョニーは演奏をやめると微笑む。

「かつては君たちもダテ学に関係した。けどな、今の歌のように君たちは常に心を雨に打たれている状態なんだ。罪を流してほしい。でも現実はそこまで甘くない。それを分かっているからテイルズ学園に来たんだ。罪を償うために」

スタンはジョニーの言葉から一つだけヒントをもらった。
そしてスタン自信が気づいたことがある。

「ダテ学を裏切ってまでもこの学園に来たってことだよな。なぜそこまでしてこの学園に来たんだ?」

ジョニーはスタンが自分の与えたヒントに気づいてもらうことで安心した。

「僕は必要以上にレプリカを造り出すダテ学にやきを回したのさ。…同じレプリカとして何も知らない状態でいいように使われて、死んでいくだけの彼らを見ていられなくなったんだ。それだけ」

シンクは過去に見たことがある。
ディストが必要以上にレプリカを製造し、最低限のことしか教えずに彼らを魔物と戦わせ、何度も「失敗ですね」と言ってはレプリカを殺しているところを。

「アリエッタはママが殺されたことを知ったの。ダテ学の人に…です。だから、あそこにはいたくなかった!ママの仇、とりたいから!」

アリエッタは生まれた時から実の両親がすでに他界していたため、魔物に育てられた。だが、母親代わりだったその魔物も何者かに殺されていた。

「俺は…ヴァンのつまんねぇ野望を止めるために裏切った。別に俺一人で片付いたかもしれんが、こっちには俺のレプリカルークがいる。そいつには…ヴァンの本当の姿を知ってほしくてな。そうするためにはテイルズ学園にいる方が都合がいいのさ」

ルークはヴァンに懐いている。
昔に剣を教わった師匠だからだ。
だがルークはヴァンがダテ学にいることを知らない。
アッシュはルークにヴァンの本当の姿を彼に知ってほしいのだ。
もう師匠ではないことを。

「俺は…ギンヌンガ•ガップの扉を閉じるためだ。ダテ学は日々魔物をこのテイルズ学園に溢れさそうとしている」

リヒターはメガネを軽く指で持ち上げる。
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