小説
□テイルズ学園 第1章
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生徒たちの耳に聞こえたのは教室の扉が開く独特な音と男性の声だった。
まるで熱血系体育教師のようにその声は教室内に、なんとこだまする。
「授業始めるぞ」
その男は教師というには不釣り合いの雰囲気を漂わせていた。
声がデカい分、体育教師としてはまだ釣り合っていたのだが。
誰もが「いきなりっ!?」と驚きを隠せないなか、体育教師らしい雰囲気を漂わす男はやはり大声でそれでも声を殺したつもりで笑ってみせた。
それは冗談を本気にした若き生徒たち数名に向けられていた。
「冗談だ。入学式も無しに授業を始めるわけない」
そこで一度言葉を切り、男の顔が真剣なものに変わった。
「俺はバルバトス・ゲーティア。入学式の会場に案内するから、俺に続け」
彼のその一言で生徒たちの間に騒めきが広がる。
入学式というワードに胸躍らせる者、これから勉強しなければならないのかと落胆する者。
ほとんどの生徒は言われるがままに整列し彼に続いたが―…、
どうにも一人、入学式を気に食わない生徒がいた。
「だーっ!!もう面倒くせーんだよ!何で入学式なんてあるんだよ。だりぃ…」
長髪ルーク。
彼はうなだれてトロトロとゆっくり歩く。
入学式に出席しなければ、ガラリとした教室に一人残されることとなるので仕方なく生徒の行列に続いてはいる。
「…黙れ」
すかさずアッシュは隣にいたルークに、鋭い目でも口でもそう訴える。
「うぜぇよ」
しかしアッシュに返ってきたのはやはりこの台詞。
もう慣れているものではあるが、ここは一つ。
「屑が!こうしてやる」
彼は突然、剣を抜いた。
しかもやる気に満ちた目でこちらを睨み付ける。
「や、やろうってのか?ヴァン師匠(せんせい)に言いつけてやるからな!」
その気迫にルークはおびえて後ずさりする。
アッシュのいつもとは違う雰囲気に、つい気圧されてしまったのだ。
「黙れ屑!雷神剣!」
しかしアッシュは自分と同じ師匠の名にも怯むことなく、剣を前方に突くように出し雷撃を繰り出す。
「あっぶねぇ…お前、俺を殺す気か!?」
ルークはそれを、体を精一杯捻らせ避ける。
背中の辺り、空を切られた感じがしたが…。
「―それはどうだかな」
アッシュはもう用は済んだと言わんばかりに、そっと剣を収める。
「え?」
しかし言われると、頭が軽くなったような…。
「あ!断髪したのか…」
ルークは偶然にも近くにあった鏡で確認した。髪が大いに短くなっている。
アッシュが何を考えてこの行動に出たかは定かではないが。
「…これで一件落着だな」
ルークの意思とは関係なくアッシュはルークの髪を断髪。その後というもの、ルークは人が変わったように大人しくなった。
…具体的には文句を言わなくなったのである。
そして、生徒一同は入学式の会場へと到着した。
おそらくここは体育館だろう。
広く、整った設備。
念入りに磨かれている床。
特に床は、鏡のように自分の姿が映るほど綺麗だったのである。
生徒の全員が席に着いたところで、入学式は開幕を迎えた。
「これより、テイルズ学園入学式を始めるですの。司会はミュウと」
「センチュリオン・テネブラエ。以後、テネブラエがお送りします」
ミュウとテネブラエは蝶ネクタイをしていた。
大切な行事なので、彼らは彼らなりの身のこなしをしてきたに違いない。
マイクは特注の、背の低いものを使用していた。
「それでは、校長のおはなしですの」
ミュウのコールが体育館内に響く。
校長と呼ばれた人物はゆっくりと歩き、台座へと立った。見る限りでも結構な老人である。
まさに校長のイメージに相応しい人物だ。