Yuki short
□*sakura*
1ページ/1ページ
〜*sakura*〜
Yuki&…
*********
はじめて出会ったのは、満開の桜の下だった。
キョロキョロと周りを見渡すその姿がいやに印象的で覚えている。
いつもはやり過ごすのに、なんでだろう?
惹かれるように俺は気がついたら声をかけていた…
「…何やってんだ?」
少しびっくりした顔をして見つめてくるそいつ。
大きい目がすごい印象的だった。
「この辺りが初めてで、道がわからなくて…」
握り締めている地図を見ながら、俺にそう言ってきた。
「どこ行きたいんだ?」
「…えっと…あの…この学校なんですけど……」
「……え?」
その時、急に風が通り抜けて…
満開だった桜の花びらが俺たちの間を舞った。
「……きれー…」
舞い散る花びらを見つめてる彼女の方が綺麗だと思ったなんて…
その顔が忘れられないなんて……
今のこいつに言ったらびっくりするんだろうな…
あの桜の出会いから、早1年。
準備室の窓から見える桜は、今年もあの時と同じように咲いていた。
「先生、何見てるの?」
あのときの舞い散る花びらを見ていた笑顔で、俺の方を見つめる彼女。
……そう。
あの時の学校は俺が勤めてる学校。
彼女は俺の生徒で、俺はその担任。
そして…今は…
「…ん?あぁ、桜見てたらな、色々と…な」
出会った時のことを思い出した…と言おうとして見つめ返すと、そっと俺の白衣の袖を掴んでくる。
見つめるしかなかった出会ったばかりの頃と違い、この1年で少しずつ距離が近づき……
男しかいないこの学校でそいつは健気に一人頑張っている。
男の中にそいつが一人ってなると…
いろんなことがあるわけで…
それをいろいろと助けているうちに……
…その…まぁ……なんだ………
ヒナが初めて出会ったものを親と見るように、初めて道を聞いた俺が彼女には親のように思うらしく…
何かあればこの部屋に居座りついていた。
はじめこそ邪険に扱っていたが……
どんだけ邪険に扱っても、喰らいついてくるその根性に気がついたら……
しゃあねぇな…
…リスクぐれぇ覚悟してやるよ……
そんなやり取りをしたホワイトデー…
徐々に近づく距離。
袖を掴んでる手を取り、身体をそのまま俺の胸へと押し当てる。
袖にあった指は背中へと回されて……
「桜、きれーだぞ。見ないのか?」
「……うん。先生見てる方が幸せだもん…」
そう言って、俺の胸から上目遣いに見つめてくる顔は、あのときの顔。
その顔を見るたびに思い出す…
あのときから目が離せなかったんだろうなという俺の想い…
「……あと…やっぱり一緒に花見したくても……まだできないし…」
その言葉にふと呟いていた言葉を思い出す。
『憧れはね…手を繋いで一緒に桜の花道を歩きたいんだけど……』
まだ言わないけれど…
次の桜が咲く頃、
その頃には、きっと2人で花見ができるから。
その頃には、手を繋いで一緒に歩いてみるか?
きっとそういうと、こいつはまたあの笑顔で笑うんだろう。
…あと1年。
こいつのこの調子じゃ…きっと……近いうちにもっと触れることになっちまうだろーけど…
リスク覚悟で手出したんだ。
泣かせねーようにずっと守ってやるよ……
と思いを胸に、胸にいる彼女をきつく抱きしめた……
end
2013.4.4
.