タン
□コーリング
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「何で、あんな夢なんか…」
ベッドから勢いよく半身を起こした蝉は、ホテルの壁を見つめながらため息をついた。
岩西と離れてから4日、蝉はこの二人分のベッドがある部屋でずっと岩西を待ち続けている。
隣の岩西のベッドは蝉の着替えで占領されていたが、不在のせいで、シーツや布団はいつまでもきれいにそろったままだった。
「ちっ…」
思わず舌打ちをし、蝉は再びベッドに倒れ込んだ。
「お前が連絡よこさないせいだ…」
誰も居ない岩西のベッドを睨みつけ、携帯をそこに投げつけた。頭から布団をかぶり、目をぎゅっと瞑る。
すると、さっき見た夢の映像が鮮明に蘇った。
「〜…!」
それは、岩西との行為の夢。
「何で…!」
蝉は頭を振ってその光景を振り払おうとするが、それは消え去るどころか、より鮮明に蘇ってくる。
熱い息遣いや腰を這う指、濡れた舌の感覚まで。
蝉は体の芯がズキンと疼くのを感じた。
だけどそれを認めたくなくて、さらに布団にくるまる。
『寂しくなって泣くんじゃねぇぞ』
岩西に笑われてしまいそうな気がしたからだ。
「うぅ…」
だけど一度熱を持った体は、蝉の言うことを聞いてくれなかった。
岩西の姿を思い浮かべながら、そこへ手を伸ばす。
「あ…」
初めはパジャマの上から撫でていただけだったが、それじゃ足りなくなって、蝉は下着の中に指を滑り込ませた。
「んっ…!」
岩西…
蝉は心の中で何度も岩西の名前を読んだ。きつく閉じた瞼の裏に、意地悪に笑う岩西の顔がはっきりと浮かんでくる。
『俺の事思い出して、そんな事してんのかよ?』
そんな声まで聞こえてきて、体がピクリと震えた。
「は、ぁ…!岩西...!」
早くなる呼吸とともに、手の中のそれも濡れた音をたて始める。
『お前ここ、弱いよな?』
「ん...!」
いつもの岩西との行為を思い出しながら、自分の手に岩西の手を重ねた。
「はっ…あ…岩西…!」
蝉は目尻に涙を浮かべ、体を捩らせた。
軽く爪を立てた先端からは、次々と液が溢れてくる。
「あっ、ぁ…いわ、にし…!」
限界が近いそれを、岩西の手をダブらせた手で追いつめていく。
『ほら、イけよ。蝉』
「あぁ…っ…!」
蝉は大きく体を震わせて果てた。
「はぁっ…はぁ…!」
ぼんやりとする頭で蝉は岩西のベッドを眺めた。
投げられた携帯は、相変わらず静かに服の中に埋もれたままだった。
思わず溢れそうになった涙を隠すように、蝉は枕に顔を押しつけた。
「早く連絡しろっつーの…!バカ西!」
悪態をついても、胸の中の寂しさは消えない。
「会いてぇよ…」
蝉が自然とそう漏らした時、服に埋もれた携帯が、くぐもったバイブの音とともに明るく光るのが見えた。
end
2011.5.14