タン
□double
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「おい岩西」
『いつまで寝てんだよ』
「『はやく起きろ!!』」
「いってぇ!!」
何だ?何事だ!?
頭に軽い衝撃を覚え目を覚ますと、岩西は目の前に飛び込んで来た光景に目をまん丸にした。
「蝉が…二人…?」
−double−
「こりゃ一体、どういうこった…?」
岩西は眼鏡をかけ直し、これが錯覚では無いか確認した。
だが、何度眼鏡を動かしてみても、何度瞬きをしてみても、蝉は二人のままだった。
「何やってんだよ岩西」
『今日は、給料貰う日だぞ?せっかく早く来てやったのに、いつまで寝ぼけてんだ』
そう言う蝉の手には枕が握られている。
おそらくそれでさっき岩西の頭を殴ったのだろう。
よく見るとその蝉は、いつもの蝉より小さく見える。
背が4、5センチ位低く、結んだ髪も短い。
これはひょっとして
岩西は思考を巡らせた。
俺と初めて出会った頃の蝉じゃないか…?
左にいるのはいつものカーキのモッズコートを着た蝉で、右にいる蝉は、ピンクのパーカーの上に革ジャンを羽織っている。
パーカーの尻の辺りには、白い小さな尻尾もついている。
間違いない。これは、4年前に出会った頃の、17歳の蝉だ。
岩西は確信した。
だが何でこんな事が?俺は夢でも見ているんだろうか?
『おい岩西〜。早くしろよ、俺たちこれから用事あるんだからさぁ。なぁ?』
「そうだよ岩西。寝ぼけてないで、さっさと給料渡せ」
二人は結託でもするように肩を寄せ合う。
まるで兄弟の様だ。
トリッキーな光景に未だ戸惑いながらも岩西はとりあえずデスクに向かった。
そして一つだけある給料袋を引き出しから取り出す。
それをいつもの、つまりは21歳の蝉に投げた。
「何だよ岩西、俺の分だけか?」
受け取った蝉は不服そうだ。
「そりゃそうだろーが。何が不満なんだよ?」
『俺の分はねぇのかよ?』
17歳の蝉が頬を膨らませる。
「あぁ?当たり前だろーが。何で働いてもいねぇお前に払わにゃならんのだ」
『うぅ…蝉...!岩西があんな事言う…!』
目を潤ませた17歳蝉は隣の蝉にギュッとしがみついた。
「おい岩西!こいつだって俺なんだから、俺と同じように給料渡せよ!」
『そーだそーだ!』
蝉の後ろに隠れた17歳蝉は、背中越しに野次を飛ばす。
「何なんだこのめんどくせぇやり取りは…」
岩西はため息をついた。
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