タン
□カッソ、鎖、リアルファー
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そんな紐、早く切っちまえばいいのに
テレビに映る青年を見て蝉は思った。
画面では、蒼白な顔をした青年が、自らに絡んだ紐を切ろうと死にものぐるいで足掻いている。
だが、手にしたナイフは空回りするだけだ。
俺なら100倍うまくナイフを使えるね
蝉は鼻で笑った。
それにそもそも、操られたりなんかしない。
俺はそんなにまぬけじゃねぇ。
蝉が画面に冷たい視線を向けたところで、身体中に紐を絡ませた青年は言った。
「人形でいいので、自由にして下さい」
ばかばかしい。
蝉はテレビのスイッチを消した。
乱暴に放り投げたリモコンの先に死体が転がっている。
声もなくこちらを見るそれが
「お前もそうだろ?」
と言っているような気がして、舌打ちをした。
俺は自由だ。
誰にも縛られてなんかいない。
部屋を後にして携帯を見ると、予想外に時間が過ぎている事に気付いた。
あんな映画なんか見ていたからか
蝉は携帯をしまい、走り出す。
そこではたと、何で俺はあんな奴との約束を律儀に守ってるんだろう?と疑問に思う。
少しくらい遅れたって、構いやしないのに
そう思いながらも急ぐ事をやめない自分の手足を、蝉は見つめた。
紐、絡んでいないよな?
道の向こうから伸びた長い紐に、ぐいぐいと体を引っ張られているような感覚にとらわれて、蝉は首を振った。
ばかばかしい、あんな映画、俺とは何にも関係ないさ
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