タン
□いつもの日、いつかの日
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「やっべ。種飲み込んじまった」
蝉は食べかけのスイカを片手に、喉元に手をやった。
今日は特に仕事もなく、事務所で二人で軽い食事をとっていたところだった。
と言っても、コンビニで買ってきたビールと小さなスイカぐらいだが。
「まじかよ、蝉」
岩西は神妙な顔をして見せた。
「2、3粒飲み込んじまった。勢いよく。何かまだこの辺にいる気がする…」
蝉は黒い革のチョーカーの上から喉元をさすった。
岩西は眼鏡に手をやり、これは困ったぞ、と眉間にしわを寄せた。
その様子に、蝉は何事だ、と首をかしげる。
「蝉、おまえあぶねぇぞ。まだ喉にいるうちはいいが、スイカの種ってのは人の胃液で成長する特質があるんだ」
「は?何言ってんだ?胃液?」
「そう。だからそのうち喉元から胃に進んで行くと、その過程で種は成長を始める」
「まさか。そんな訳」
「信じられないだろうがそうなんだ。今までいくつも症例がある。」
「…で、どうなるんだよ?」
「腸まで進んだ種はちょうど臍の辺りで芽を出すんだ」
蝉は無意識に臍の辺りをさする。
「さっき飲み込んだから、もうすぐ臍を突き破って出てくるだろうな…」
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