タン

□いつもの日、いつかの日
1ページ/8ページ


「やっべ。種飲み込んじまった」


蝉は食べかけのスイカを片手に、喉元に手をやった。

今日は特に仕事もなく、事務所で二人で軽い食事をとっていたところだった。

と言っても、コンビニで買ってきたビールと小さなスイカぐらいだが。


「まじかよ、蝉」


岩西は神妙な顔をして見せた。


「2、3粒飲み込んじまった。勢いよく。何かまだこの辺にいる気がする…」


蝉は黒い革のチョーカーの上から喉元をさすった。

岩西は眼鏡に手をやり、これは困ったぞ、と眉間にしわを寄せた。

その様子に、蝉は何事だ、と首をかしげる。


「蝉、おまえあぶねぇぞ。まだ喉にいるうちはいいが、スイカの種ってのは人の胃液で成長する特質があるんだ」


「は?何言ってんだ?胃液?」


「そう。だからそのうち喉元から胃に進んで行くと、その過程で種は成長を始める」


「まさか。そんな訳」


「信じられないだろうがそうなんだ。今までいくつも症例がある。」


「…で、どうなるんだよ?」


「腸まで進んだ種はちょうど臍の辺りで芽を出すんだ」


蝉は無意識に臍の辺りをさする。


「さっき飲み込んだから、もうすぐ臍を突き破って出てくるだろうな…」


.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ