切原×桜乃 長編
□ 「深層」
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全国模試が行われ、柳や柳生の助力と桜乃の努力のかいあって、桜乃が思っていた以上の好成績を取ることができた。
桜乃はそれを見て、思わず手が震えた。震えを止めるためその結果を両手で皺ができるくらい握りしめた。
そして、両親に自分の志望を伝える決意をした。
<竜崎邸>
「あら、桜乃ちゃん、おかえりなさい。」
おっとりと優しい声で桜乃を迎える母。
「ただいま。お母さん。お父さん今日、早く帰ってくるかな?」
「そうね・・。特に連絡がないから7時くらいまでには帰ってくるんじゃないかしら。」
「・・・・あのね、お母さん」
「何?」
「お話があるから、お父さんと一緒に聞いてくれる?」
「まぁ、桜乃ちゃんからお話だなんて。何のお話かしら。」
「うん・・お父さんが帰ってきたらね。」
「お父さん、お母さん。」
「なんだ、改まって。嫁に行くみたいじゃないか。」
桜乃の父は近い将来の未来を見たような気がして寒気がした。
「あのね、これ見てほしいの。」
桜乃は、全国模試の結果を見せた。
それをみて、眼を大きくして驚いた両親。当然だろう、青学の中でも中位の成績しかとってなかった愛娘が、全国模試の結果で難関高校がほとんど合格圏内に入る成績にとっているのだから。
「桜乃。おまえ。」
父親のほうかかなり動揺が激しい。母親はまだ、がんばったのね〜と、余裕のようだった。
「その結果は、私の希望をかなえるために2年の時から勉強して頑張った結果です。」
「成績と、お前の望むものと何か関係があるのか?」
桜乃は大きく深呼吸をして父親を見つめた。
「・・・私、青学高等部じゃなくて、立海付属高等学校に入りたいの。」
立海といえば有名大学へ進学者が多数いる、難関高校。青学も有名高校ではあるが、進学面では立海にはかなわない。
その立海という名に父親は腰を浮かし驚いた。
「立海が有名なのは知っているが、どうして、青学じゃいけないのかい?成績だってこんなに急に上げてまで・・・。青学だってそこそこの大学にはいけるだろう。なにより、青学にだって大学部まであるじゃないか。」
父親の知っている桜乃の成績は青学のころのものだけ。
だから、全国模試で一気に上がったとおもっているのだ。
桜乃は両親に初めて、学校であった事の告白をする。
「成績は落としてたの。」
「いい点をとると、おばぁちゃんの評判を落とすことになるから。」
娘の思わぬ告白に父親は声を深くして聞いた。
「どういうことだ。」
「テストで高得点を取ると、おばぁちゃんが先に問題を見せただろうって、そういう噂を立てられたの、一年の最初のころ。」
「・・・・・・」
両親はさらなる驚きをうけた。今度はさっきとちがって、ショックという衝撃だが・・・。
桜乃はいま、溢れ出る感情を抑えることができなかった。
そこには、やっと、自分のやりたいことができるようになるという希望の光を掴むかのような必死さがあった。
いつもなら、抑えるであろう、欲求を思いのまま口にした。
「英会話もやりたかった。数学だって本当は好き。絵だって習いたい。でも、青学じゃできないの。」
こんなに感情を高ぶらせて声を上げる娘は何年ぶり・・・いや、初めて見たかも知れない。
赤ん坊のころからおとなしい子で、親との約束事はきっちりと守る子で、厳格な祖母の礼儀作法教育にもいやな顔せず、真剣に聞いていた。
そんな、娘の感情があふれ出してる。
“こんなにも、この子は考えて考えて、悩んで悩んで、それでもくじけず前に進もとしていたのか・・”
父親は手にした、全国模試の結果を見た。
「おまえ、一人で悩んで一人でここまで頑張ったのか?」
娘の不安や戸惑い、悩みに気がついてやれなかった自分の不甲斐なさに、握り拳をつくり、父親は震えていた。
「一人じゃないよ。相談に乗ってくれたり、助けてくれる人はいっぱい居たよ。だから、私、がんばれたの。お父さんやお母さんに黙ってたのは、この結果がでるまえに、しゃべっちゃうと、気が抜けそうな気がして・・・。私、甘えん坊だから・・・。」
桜乃が困ったように笑った。
母親が桜乃のそばによって、声をかける。
「桜乃ちゃん。」
「はい。」
母親は桜乃をそっと、抱き寄せた
「よくがんばったわね。こんなに、桜乃ちゃんが頑張ったんだもの。お母さん応援しちゃうわ。」
のんびりとした口調で頭をなでられ、桜乃は急に、小学校の頃、絵を描いては褒められていたことを桜乃は思い出した。両親に重大な意思を伝えなければならない、という桜乃の緊張の不意を突かれ、思わず肩の力が抜け、泣きそうになってしまった。
「母さん」
それに、静止とまでのつよいものはないが、父親から横やりが刺される。
「青学じゃなくたっていいじゃない。・・・実はね、お母さん知ってたの、桜乃ちゃんが夜遅くまで勉強してるの。でも、一人で何かを決めて頑張る桜乃ちゃんって初めて見たから、頼もしくなっちゃって。ずっと、黙ってたの、そうしたら、この結果。驚いたわ。
お父さんが応援しなくても、お母さんが応援してあげるから、安心して。
桜乃ちゃんのことだから、学費とか心配してるんでしょ。
その面も大丈夫よ。お母さん、最近、株であてたから。
お父さんがだめって、いってもお母さんが通わせてあげる。」
ぎゅっと、桜乃を抱きしめる母親。
「な!!!お父さんだって別にいかんとはいってない。ただ、知り合いもいないところにいって桜乃が不安じゃないかと思って・・・」
父親の発言に桜乃は思わず笑った。もう、高校合格できた気でいるのだ。いや、むしろ父親の中では神奈川の寮に一人暮らしをさせなければならないことを考えているのかもしれない。
「お父さん、まだ、受けてもいないし」
桜乃はまだ、わからない、ということを言おうとすると、父親は言い切った、
「いいや、何を言う!桜乃が落ちるわけないんだ。」
そう云い張られると、と困るも、母親独特のあの流れで今回も父親は桜乃側に回ってしまった。
桜乃は安堵の頬笑みを浮かべ一人っ子と取り合う、両親の深い愛の板挟みになっていた。
「お義母さんへ、桜乃のこと言わないと・・。」
「ああ、母さんも桜乃のことはかわいがっているから自分の目の届く青学にいかせたがるだろうな・・・。」
「でも、この成績と桜乃ちゃんの意思を伝えれば、ゆるしてくれるんじゃないかしら。」
「そうだな、桜乃が頑張ったんだ。親としてその道を閉ざしたらだめだからな。」
「はい。」
「そういえば、母さん」
「何でしょうか。」
「・・さっきから疑問に思っていたんだが、株なんていつ買ったんだい?」
「お友達に誘われて、ちょっとやってみようかしらって、私、お家にいることが多いから。そうしたら、なんだか、とても調子が良くてv」
「・・・そうですか・・」
「本当は、桜乃ちゃんに新しいラケットを買ってあげようと思ってたんだけど・・」
「?」
「大学まで余裕そうよvあなた。」
恐ろしい妻をもったものだと、せめて、妻の株利益が自分の年収を超えないようにと思う、父であった。