切原×桜乃 長編

□ 「言行」
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「ぜぇぜぇ・・・・さ・・・」

切原は桜乃の姿をとらえた。それにこたえるように桜乃も切原に向かって走ってくる。

切原は、桜乃の名前を呼ぼうとするが呼吸がうまくいかない。

それを桜乃はさっしたのか、冷えたペットボトルを切原の頬にあてた。

「お疲れ様です。切原さん。」

サンキュ、そういうと切原は桜乃からペットボトルを受け取った。

部活をしてきたのだから、と桜乃は話をしましょうと提案する。

緑豊かな公園のベンチで二人が並んでいる。

自然すぎて誰もこちらを見ないほど。

「そういや、最近、学校。・・・大丈夫か?」

切原は桜乃の学校での状況を多少なりとも彼女から聞いている。

遠慮がちにそれを言うことが恥であるように思っている彼女にとって切原の耳にはいるのはほんの片鱗だ。

切原もそれを承知している。

桜乃は、学校のことを聞かれるのがつらいということがなくなっていた。ただ、まだ、切原に部活を辞めたことを言っていない事が、後ろめたく、なにより「テニス部」というつなぎがなくなってしまうことが怖くて仕方がない桜乃。

「・・・・・・・・・・・・・・」

うつむいて顔を上げない桜乃に切原は何かを感じた。

「まさか、また、何かひどいことされたのか!!!!!!」

怒ったように立ち上がる。

桜乃はその声の大きさに驚きベンチから落ちそうに傾く。

切原はそれに気がついて桜乃の腕を掴んで、持ち上げてベンチに座らせる

「あんまり、脅かすなよ・・」

「すみません。」

「でも、なんでそんなに暗いんだ?」

「・・・・・えっと・・・」

口どもる、切原はここのところの桜乃との付き合いで桜乃が口どもるときは何か悪い事の前兆だということを学んだ。

「なんだよ。」

桜乃になにか悪いことが起きているのではないかと、心配の余り、回答をせかす。

「ごめんなさい!!」

急な謝罪。

「はぁ?」

「わたし、切原さんにウソついてました」

わけがわからない切原

「?」

「私、もう、テニス部じゃないんです。テニス部辞めちゃったんです。」

一世一代の第告白とでもいう勢いで頭を下げたのに帰ってきた切原の返事に拍子抜けする。

「で?」

それだけ

「はぁ?」

桜乃もおもわず、気の抜けた返事をする

「だから、それで、桜乃の何が変わるの?」

「えっと・・・」

変わるとか変わらないとかではなく、切原にテニスの関連のことでうそをついていたのが居た堪れない桜乃だったのだが、切原としては別に気にしたことではなかった、

「桜乃はまだ、テニスすきだろ?」

「はい。」

「なら、いいんじゃね?」

「えっと・・」

“な”といわれてもなかなか同意ができずオロオロとする桜乃。切原はそんな桜乃をビシっと指さす。

「お前は、考えすぎ、悩みすぎ、落ち込みすぎ・・・」

「あうぅぅ」

見事にビンゴなことを言い当てられシュンとちいさくなる。

「でも、それって、まわりのことを思って人一倍慎重になってるってこだろ?」

「・・」

「どうやったら、安全か、傷つかないか、みんなが大丈夫か、左右きっちり確認してみんなを守るくらいの意気込みがなきゃ悩まないだろ?一つのことを人に伝えるという行為くらいで。」

“俺、悩まないし”と切原はシシシと笑った。

「俺、お前のそういう、優しいとこ気に入ってる。」

「え。」

思わぬ、切原の告白に桜乃の頬は桃色に染め上げられる。

「お前にしかできないし、お前以外がしたら、うざい。おまえだけの特権だ。」

「切原さん!」

「あ・・だけど、テニス部辞めたの黙っていたのにはバツが必要でしょう!!!」

ぴしっと桜乃にデコピンをする切原。

「今日から桜乃は俺のこと赤也って呼ぶんだ。お前のことだけ名前呼びだったじゃん、」

「よ・よ・よ・よ・っよよよよ呼び捨てなんて無理です。せめて、赤也さんで・・落ち着いてください!!」

ものすごい勢いで手を振り、無理だということを申し出る桜乃。

桜乃の申し出に、ニコニコと笑って切原は手を出した。

「改めて、よろしくな、桜乃」

「はい、赤也さん」

本当のところ、もし、桜乃が呼び捨て呼びを承諾し「あ〜かや!」と元気よく呼ばれてしまったらどうしようかと内心ビクビクだったの切原だけの、心の秘密である。


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