切原×桜乃 長編

□「目標」
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桜乃への呼び出しは急激に減った。

それでも桜乃に対する嫌がらせは続いている。

しかし、それに負けない意思を持ちつつある桜乃は前に進んでいた。



桜乃にはいま目標がある。

高校受験。

志望校は

「立海大付属高等学校」

青学よりも学力のレベルは高く、途中入学ともなるとハードルはかなり高い。

それでも、桜乃はここを受けるつもりで進級した2年より、受験を意識した勉強をするようになった。



桜乃の成績は1年の時で中くらい。

ふつう考えたら、そんな成績では立海は受からない。

しかし、これは、桜乃の成績ではない。わざと、桜乃が作った成績。桜乃は成績の方面からも攻撃されていた。

入学当初、桜乃の成績は上から数えたほうが早かった。努力家の彼女は何事も手を抜かず邁進するためそれが結果としてでているのだ。

しかし、桜乃の通う中学には、竜崎スミレという祖母がいる。



「成績がいいのはおばあちゃんに先に問題見せてもらってるんじゃないの?」



そんな、根も葉もないうわさを立てられた。むろん、竜崎スミレがどれだけ厳格な人間であるかを理解している人間がいたならば、こんなことにはならなかったが、中学一年、言いかえれば昨年まで小学6年生。子供だ。

子供のいたずらな嫉妬に巻き込まれた桜乃。

こんなに、問題になるなら・・・と、桜乃は自ら成績を下げた。

わかる問題。だから簡単に間違うこともできる。

桜乃のテストは学力の成績を測るものではなかった。



しかし、目標を持った桜乃は変わった。

授業には積極的に参加し、挙手をし、苦手な理数系の問題には職員室で先生を捕まえかたっぱしから、疑問という疑問を解いていった。



その姿には教員も驚いていた。

「竜崎先生、最近のお孫さん。見違えるように勉強に打ち込んでいますが・・。いや感心なことなので、水を差すつもりはありません。」

「あたしも、驚いているんだよ。きっとあの子なりの考えがあってやっていることだから、心配はしていないけどね。

ただ、テニス部を辞めてしまったことだけは残念だよ。」

そう、桜乃はテニス部を辞めた。

中学の課外活動は自由参加だ。勉強や身体に影響が出るようなら辞めてもかまわない。事実、小坂田 朋香は未所属だ。

「しかし、あれだけ、勉強を頑張っているんだ、それでテニスまでやっていたら、あの子がまいっちまう。

やれることをやることができるのも今の学生のうちだけさ、」

「そうですね。・・・あと、・・いっていいものかわかりませんが。」

バツが悪そうな顔をする教員。“男だったらぱしっといわんか!”と竜崎スミレに叱咤され、教員は口を開いた。

「・・竜崎桜乃はいじめの対象になっているという、話もでていますが・・。」

そう発言した教師に竜崎スミレは暗い目線を送る。

「それについては、あたしも知っているよ。しかし、桜乃に問いただしても何も答えん。かといって、首謀者を見つけそれを注意すれば、また、あたし達のしらないとこでのいじめは強くなる。

こんなとき、教職に就いている身内は無力だよ・・・。」

はぁ、というため息がいやに重く感じられた。



桜乃はテニス部を辞めただけであって、テニスを辞めたわけではない。

切原との出会いのきっかけとなった大事なテニスを桜乃が捨てるはずもなく、壁打ちや素振りなど、自分にできることはやっていた。

休日ともなれば、練習の場まで切原がやってくる。

立海は休みの日でも遠慮なく練習がある、それにいま彼は部長だ。休むなんて言う事はあり得ない。それに、自分の先輩たちが独特集団だったのかと思っていたが、それは違っていた。

王者を名乗る立海には、予想以上に猛者がいる。

切原はそれをまとめていかなければならないのだ。感情の起伏が激しい彼は何度もキレそうになり、何度もくじけた。しかし、それを止め、宥め、前を向かしたのは桜乃だ。

電話越しの会話でも、文字になったメールでもそれは切原の力となり安定となった。

熱い性格は変わっていないが、どこか一本筋を通したその心意気、時々冷めたように客観的に自分たちを見る冷静さ、怪我をしたり上達が出来ないことに悩む部員への配慮。

たしかに、「草試合でも負けるな」という掟はあるが、そのプレッシャーに負けるものもいる。切原はその気持ちをくんでいる。その、歴代部長たちにはなかったカリスマ性が今年の立海を最強にしていた。

だが練習が終わると、着替える時間も惜しいのか「常勝立海の部長・切原」はレギュラージャージのまま、おつかれ!!と叫びながら駅に向かってはしりだす、駆け込むように乗り込み、最寄りの駅で降りたら、桜乃のところまで一直線でダッシュする。

部活のランニングも好きではない。

走り込みだって好きではない。

それでも、いまはその練習に感謝した。

あの、練習がなければ、こんなに早く桜乃のもとへ走れないから。

切原は走ることが好きになるような気がした。

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