切原×桜乃 長編

□「事件」
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桜乃は落ち込んだ。

切原に恋していた自分に赤面したのも一瞬で、昨日からの切原の態度を一人の時に思い出すと、暗くなった。

でも、落ち込んでもそれを周りに振り撒いたりするほど今の桜乃は弱くなかった。



テニス部内でも“マネージャー、元気ないですね・・。”といわれるくらいの変動はあったが、部活内での役割も果たし、授業も普通に受けていし、学校生活も変わりなく送っていた。



「桜乃ちゃん、強くなったよね〜。無駄にテンパってる赤也とは大違いだ。」

幸村は桜乃の進化に驚いていた。

「親鳥の心境だ・・。」

柳は一歩づつ前進している桜乃に成長記録をつけたい気分で、見守った。いや、実際につけている可能性は十分にあるが・・。

「わかります、その気持ち」

柳生は柳に力強く同意した。

「いつから、桜乃の親鳥になったんだい。」

丸井が突っ込みを入れる。

“その場合、柳生がお母さんで柳がお父さんか?部活の力関係から想定すると・・”

丸井は二人の会話から着物を着て、ちゃぶ台前に座っているお父さん柳鳥と割烹着姿のお母さん柳生鳥を想定して大変、気持ち悪い思いをした。

「お前、今、とんでもないもん、想像したろ。」

ジャッカルは何かを察したのか丸井に呆れたような声をかける。

「聞きたいか?」

「遠慮しておく。」



そして、部活の時、静かに何かが動きだした。

切原は部活中に軽い怪我をしたが、自主練習の時だった為誰にも気が付かれることはなかった。

“また、やっちまった・・。”

ぽたっと落ちる血に切原はうんざりした。

最近、自分はこんなミスが多すぎる。ぼおっとしていて集中していない。

いつも何か頭の隅で考えているようで、実際の日常生活よりもそちらに神経が言っている気がする。

肝心のテニスのほうもここ数日負けが続いている。

何もかもがうまくいかない、そんな日常が切原の負の感情を溜めていた。



部室に入ると誰もいなくほっとした。

そして救急箱から適当に、手当に必要なものを出し始めた。

“あれ〜?なんでこんなにモノがないんだ?あいつが管理しだしてから切らすなんてことなかったのに・・”

切原が箱の中を探していると、部室のドアが開いた。

開いた扉の所に両手に包帯やらアルコールやらを抱えた桜乃がいた

“!!!”

切原は現れた人物に驚いた。

しかし、相手は落ち着いたもので、そのまま、歩いてこっちに来た。

“やめろ、来るな、来るな、本当は来てほしいけど・・やっぱり来るな〜心臓が・・・・・・・・・・・”

切原は赤くなる顔を見られたくないためそっぽを向いて桜乃がその場から離れることを待った。

しかし、その行動が裏目にでた。

体を捻ったため、傷口を桜乃に見せる形になってしまったのだ。

流れる血

それを見てほかっておく桜乃ではない

「赤也さん、怪我!!そんなに、血が!!」

桜乃は手を伸ばして、止血しようと赤也の腕に手を伸ばした。

その瞬間、動揺したのは切原だった。

ほんの一瞬。

それでも切原にとってはなんて長いんだと思ったかもしれないその瞬間。

切原は傷を見てくれようとする桜乃の手を故意に振り払いそして、叫んだ。



「触んな!!」



切原は桜乃に怒鳴っていた。

桜乃は頑張って作っていた笑顔も固まってしまうほどのショックを受けた。

決して桜乃が嫌いなわけでもなく、むしろその逆なのに、自分は何をしているのかと切原はそんな態度しかとれない自分が情けなくなった。

桜乃がその声にショックを受けたのは明らか。

「桜乃・・あの・・」

後悔を感じた切原はなんとか、弁解しようとするが思いは届かなかった。

桜乃は立ち上がると、顔を見せないように俯いたままお辞儀をするように少し頭を下げた

「すみません。余計なことばかりしてしまって・・。」

それだけいうと扉まで走って行きそのまま、外へ居なくなってしまった。



部室に残された切原は自分のロッカーを思いっきり殴った。

“ちくしょー、なんでこうなるんだよ!”

自分に腹が立って、仕方なかった。

桜乃に好きといえない自分。

それを桜乃に当たる自分。

桜乃を傷つける自分。

“桜乃はきっと、泣いている”

それも解ってしまうほどなのに、桜乃の傍に行けない自分。

あまりにも情けなく腹が立つ。

結局また、ロッカーを殴っていた。



「竜崎、どうした?」

「真田先輩・・。」

不自然に飛び出していった桜乃が気になり追いかけきた真田は声をかけた。

だが、真田は声をかけて、人生5本の指に入るほどの後悔をした。

桜乃が泣いていたのだ。

別に桜乃に会いたくなかったとかではない。

問題は、桜乃が泣いているということ。

女の子が泣いていてどう対処していいかなんていうことは「真田の辞書」を引いたところで出てくるわけがない。

経験がないのからだ。

困り果てて、立ちすくんでしまう真田。

「あ〜、竜崎?」

とりあえず、名前を呼んでみた。

「すいません、すぐ戻りますから・・。」

桜乃はゴシゴシと自分の腕で顔を擦り、なんとか涙を止めようとする。

その様子があまりに不憫に見えてしまった真田はそれを止める。

「無理に。止めようとするモノほど、よく出るぞ。」

真田なりに“泣いていい”という気づかいだった。



なにかあったのかと聞かれた桜乃だったが、何も言わなかった。



怪我をした切原はだれにも見つかっていないと思っていたようだが、それは間違いで真田に発見されていた。

切原の怪我がここ数日多くなっていることを気にかけていた真田は、それを改善するのと、けがの様子を見に部室へ向かっている途中、桜乃が部室から出てきたところを目撃したのだ。

そして、泣いている桜乃を見つけた真田。

原因は真田でも察しがつくほど簡単だった。

そして、発したセリフは。



「赤也も本心ではあるまい。」



いきなり核心を突くのはさすが、真田。

そういうことはオブラートに包みつつ、相手に伝えるのが得策といえば得策なのだが真田は一突きにいった。

見られていたのかと動揺する桜乃だが、それよりも先ほどの切原の“触んな”という言葉なフラッシュバックされ、さらに印象付けた。

「だと、いいんですけど・・。」

ずうぅんと桜乃の周りの雰囲気が重くなったのを感じる真田。

そして、真田は桜乃を慰めようとして失敗した。

皇帝の完敗である。

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