切原×桜乃 長編

□「宣言」
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梅雨も明けきらないある日。

「さぁ、お前ら立海との試合だ。負けんじゃねーぞ。あ〜ん?」

エラそうな物言いの男が立海のコートに足を踏み入れた。

氷帝学園・跡部。

惜しげもなくレギュラー揃い踏みのメンバーで立海挑みに来たのだ。



王者と帝が対決ということで、練習試合にも関わらず他校生のすがたも見られる会場。

跡部は“ギャラリーは多いほどいい”などとこの人の集まりにひどくご満悦だった。

しかし、忍足はなにやら立海のコートに不自然なことを感じ取っていてそれを探すためか、中学からさらに身長が伸びたその体を活かしぐるりと応戦席を見渡した。

そんなとき、鳳から声が上がった。

「なんだか、おかしくないですか?」

顎を指で支えるようにし、何かを考えるような姿勢をする鳳。

「何がだよ。鳳。」

高校に上がったからと言ってすぐに落ち着くものではないものなのか、岳人はやや大きめの声でその疑問の真意を聞いた。

「こちらは、氷帝ベンチだというのに応援席に立海の生徒が多すぎます。比べれば一目瞭然。立海のベンチの後ろには応援団と、非レギュラーがメイン。」

立海の高校の制服は氷帝に比べておとなしめのイメージがある。

見慣れない、制服が自分たちの後ろを固めていて何やら居心地の悪い感じがするメンバーたち。

「本当だ。なんだ?」

改めて、フェンス越しの応援席を見渡す日吉、その今までとは違う光景に驚きの声が上がる。

「いっそ、立海の生徒が多いくらいだな」

宍戸は額に手を当て日光を遮るようにして応援席を見渡し、声を上げた。

「それに、女子が多かったのに男子も増えてますよ。」

補足を加える鳳。

「おかC・・。」

芥川はゆっくり起き上がり、その様をそう表現した。

氷帝メンバーが腕を組んで悩みこくりそうなこの事態。しかし監督の榊はそんな選手に“パン”という手打ちの音一つで意識をコートに向かわせる。

「お前たち、何を気にしている。

いま、重要なのはこの試合に勝つことだ。応援席の人数ではない。」

「はい!!」

“とは、いったものの、確かに異様な光景だ。”

しかし、疑問を持つことのものではないと榊は試合に向けての最後のミーティングのため選手たちに向きなおった。



練習試合がそろそろ始まる時間だと、両校の選手がコート内に入ってくる。



氷帝は立海の入ってくるのをみつけ、部長はじめその姿を追った。

幸村・真田・柳・仁王・柳生・丸井・桑原・切原、そこまでは中学と変わらず通常通りだったが、最後にとんでもないおまけがついていた。

レギュラー8人その後ろを歩く、可憐な少女。

氷帝のレギュラー(+監督)含め目をその姿は幻ではないかと疑った。

たっぷりのしなやかな黒髪をポニーテールでまとめ真っ白な大きなリボンで飾り、若干大きめのジャージを纏い、その裾から申し訳ない程度にみえる、プリーツのラインがなんとも可愛らしい。

そして、氷帝ベンチ側の後ろ、ネットに張り付いてそれを見ていた、女生徒のうっとりするような表情とため息。



「はぁ〜今日も姫はかわいいわね〜」

「大きめのジャージっていうのがまた、いいわね〜」

いいとこついてくるわね、と絶賛する。

「白いリボンも姫の純粋さを表していて似合ってるわぁ〜」

“ほぉ〜”と熱いため息。



自分たちも女子にはもてるとの自負がある氷帝レギュラー陣など目もくれず、愛しの姫に賛辞を贈る立海女生徒。

忍足は、その気持ちわからんでもない、と頷き、放心状態の仲間たちに状況は理解できたと報告する。

「なるほど、それで、こちら側に立海生徒が多いわけやな」

「忍足?」

「立海のほうからじゃ、後ろ姿しか見えへんやろ?だから、こちら側から見るんやないか。元青学・竜崎桜乃をな」

「な!!あれって、あの青学の子?」

「嘘?雰囲気全然違うじゃん。」

部長と忍足を除くメンバーが声をあげてまさかという声を上げたが、女に関しては人一倍記憶力と配慮を持っている忍足が言うのであるのだから間違いはなさそうであった。

しかし、あのようは美少女を青学はどうやって隠していたのかとか、なぜ、立海にいるのかと疑問を持つが、そんなことお構いなしに、忍足は“ええ足やんか”と舌舐め摺りをしそうな犯罪的目線で賛辞を贈る。

岳人はそれに危険を感じ持っていた、タオルで目隠しをして、抑えつけた。

“立海、今度はマネージャーにジャージ、着せろ!!ジャージ!!上下でな!!”

そんな、忍足を通り過ぎ、跡部は幸村を呼んだ

「おい、幸村」

「何?」

試合が始まる前の緊張高ぶるなか跡部のご指名にいささかご機嫌斜めな部長・幸村。

「なんで、そいつがそこにいるんだ?」

跡部は“ビシ”っと桜乃を指さし、上から目線で幸村に問う。

「なんでって、立海の生徒になってうちのマネージャーになったからじゃない。見てわからないの?」

冷たく言い放つ、幸村。

あからさまに、跡部がいらっとしたのを面白そうに見る幸村、さらに煽ることをする。

「羨ましいでしょ?」

幸村が桜乃の肩を抱いて跡部に自慢する。

竜崎顧問の孫というくらいでしか認知していなかった桜乃がまさか、磨けば光る原石とは己の視界もまだまだと跡部は後悔するが、まだ遅くはない。

そう、奪うことは可能

「幸村!!この試合、勝ったらそいつは氷帝がもらうぜ!」

と、コートで高らかに発言した。

忍足は、“また、我儘ぼっちゃま病が発作を起こしよった”と岳人の戒めを解いてみた光景に、ため息をついた。学校の転校というのはそれ相応の手順と処理が必要なのだ。
”テニスボールをもらいます”のような備品移動とはわけが違う。
”何を考えてんのやら・・”と忍足はあえて突っ込まず、その場を傍観することにした。

その言葉に氷帝の応援席にいる立海生徒から“ふっざけんじゃねーぞ、こら!”と言わんばかりの視線が跡部に投げかけられる。

跡部は幼少のみぎりより、地位もお金もある生活、そして優れた才能。整った容姿の持ち主。敵意のこもった視線など受けすぎている。そして、そんな視線を真に受けてビビるほど彼は弱くない。

しかし、それを一瞬で跳ねのけるようなセリフを吐いたやつがいる。切原だった。



「桜乃は、俺たちのだからお前ら何なんて譲るか!!ば〜か!!」



跡部の宣言を当事者の桜乃。いったい何が起きたのかいまだ理解できずただ立ちすくんでいたところを切原が後ろから抱き締めて、“べ〜”と赤い舌を出し威嚇した。



その行動に、“はぁ?”とさすがの帝王も不意を突かれる。ベンチに戻り仲間と円陣を組み話し合ったのは勝利への方程式ではなく。“まさか、あいつが彼氏?”という説を肯定するか否かであった。

「お〜い、お前たち、試合・・なんだけど・・・。だれか、聞いてる?」

監督の悲しい声に反応する者は誰もいなかった・・。



その後も“ガルルル”と吠えそうな切原をなだめ、切原と桜乃を離すと、幸村は桜乃に聞いた

「だって。どうしよう桜乃ちゃん。」

「そ、そんな、私、立海にいたいです。」

幸村に肩をたたかれようやく、自分が氷帝に攫われるかもしれないという事実に気がつく桜乃。

「だよね。空気読めない、俺様は困るよね〜。」

“それに、桜乃ちゃんを賭けの対象にするとはいい度胸だ”桜乃を可愛がる兄貴分としてその扱いは不当なものと認識されたのだ。

「という、わけだから、みんな。」

“ざっ”と幸村のほうを見る立海メンバー。

幸村は桜乃の耳をふさいでレギュラーに宣言した。

「足腰立たなくしてやろう。この試合、負けたやつはテニス部から名前消すから。」

鮮やかに言い放った幸村。

その言い様は、テニス部どころからこの世から名前が消されそうな勢いだった。

むろん、負ける気のない面々はどうやって、相手を懲らしめてやろうかと算段する始末。

桜乃の耳から手を離す。

「桜乃ちゃんはいつも通りマネージャーの仕事しててね。あ、でも一人で行動したらだめだよ。」

青学とは別の意味のオオカミが存在しているのだから子ウサギを一人で出歩かせるなんて考えられないのだ。

「・・はい。」

何故耳をふさがれたのか疑問に思うも、いつも以上にやる気がみなぎっている先輩たちをサポートしなければと桜乃も気合を入れるのであった。



切原は跡部の台詞を聞いた後の幸村のあの笑顔を見て思った

“ゲーム内に存在する「死亡フラグ」ってあの瞬間を言うんだよな〜きっと”

この人はいつか、何かを支配するという予感を切原はこの時から抱えるようになる。



切原の予想裏切らず、立海は快勝をえる。



そして、氷帝は“やはり立海は強い”という認識を強くし、それを倒すべきトレーニングを次なる本戦に向け励むのであった。負けてもタダでおきないから、氷帝も立海が注意すべき強豪校として認識されているのだ、

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