オリジナル小説

□消された記憶(続)
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沈黙を最初に破ったのはもちろん、私だった。

『私…。千鶴として覚えていることがあります。』
『え…?なに?』

希世子さんは、すぐにくいついた。
希世子さんには、千鶴目線の話題を持ちかけると物事がスムーズに進むことは、この二日間だけで十分学習した。

『その前に、この本に見覚えありますか?』

そう言って私は、希世子さんに『鶴の羽ばたき』を手渡した。
ブックカバーは、すでに外してある。

『え…えぇ!見覚えあるわ!あなた、いつもこれを持ち歩いていたもの。…ほら、鶴っていう名前も同じであなたお気に入りだったでしょう?』

私は、変ですね…。 と、言った。
そして、続けて言った。

『実は…。私が覚えているって言ったのは、この本なのです…。私…バス事故の日にこの本を買って帰り道でバス事故に巻き込まれたのです。…はい、これが証拠のレシートです。ちゃんと、一昨日の日付ですし…。』

私は、ポケットからくしゃくしゃのレシートを出して広げながら渡した。

希世子さんは、レシートの日付を確認すると、
『あ…あら…。そうね…。』
言葉につまった。私は、すかさず核心をついた。

『希世子さん、本当にこの本…私が持っていたん
ですか?日付的には、ありえないんですよ…?』

『……ママが間違っていたわ!そうね!たしか、あなた本を買いに行くって行ってたわ!あぁ…忘れてたわ!ママ、うっかりしていたわぁ!』



…わざとらしい。 私は、そう思いながらも心の中で笑っていた。
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