羽鳥×千秋

□トリはファンキー・モンキー!
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ぐいぐいと手を引かれて猿山の裏手に回り、さらに猿山集団から隔離している猿の檻がある奥まった場所にまで千秋は連れてこられた。

「どうして檻に入ってんだろ?この猿。」

「さぁ。恐らく発情期になっちまって強暴だから群れから離されたんだろ」

ただでさえ人の居ない動物園なのに、こんな薄暗い場所にあり、可愛くも無い発情してるオスザルの檻になど足を運ぶ人は無くて、貸切のような一角に二人は踏み入る。

しん、と静まり返る猿の檻の前で羽鳥が立ち止まったかと思えば振り向きざまに千秋は抱きしめられた。

―――え?

などと思う暇も無く、重なる唇の冷たさに千秋はハッとしてキスされているのに気が付く。

「んぅ・・・トリ、何考えてっ!こんなトコで・・・」

かろうじて声を出せば、背中に感じるコンクリートの冷たい感触。

千秋は羽鳥の激しい口付けに喘ぎつつ壁際に追いやられしまっていて、何が起こったのかも分からなかった。

動物園に居るからってわけじゃないけど、それこそ肉食獣に一瞬にして狩られた小動物みたいに両手はがっちり掴まれ気付けば唇を貪られていた。

危機迫る千秋とは違い緊迫感を打ち消すリボン結びのマフラーがふわりふわり、と唇の角度が変わる度に揺れた。

そのマフラーとうなじを突付いては悪戯に愛撫を仕掛けてくる羽鳥の指にじれったさを感じて体が自然にくねる。

「トリ・・ィ・・マジ・・・やだ、こんな・・・」

「誰も来ないし、見られない・・・そうだな・・・見られるとすれば後の檻で発情してるオスザルくらいだ。」

何度も舌を差し込み、絡め取った舌を味わうように甘噛みしていた羽鳥がそっと唇を離してそう言った。

「・・・お・・オス・・ザルって・・」

巧みな羽鳥の舌に翻弄された千秋の呂律は回らなくて、口を開けばどちらのものかとも分からない唾液が溢れて零れる。

ふい、と横目で見れば、確かに檻に居る猿が千秋達の方向に向いていてこっちを見ている。

「知ってるか?千秋・・・猿にマスターベーションを教えると死ぬまで性器をシコるらしいぜ?」

「はぁ!?なんのウンチクだよ!自慢にならねぇ豆知識ひけらかしてるんじゃねぇっ!もう、冗談は止めて・・・・んんっ!!?」

くわっ、と牙を剥く勢いで羽鳥を叱咤するも、千秋は次の瞬間、あれよあれよという間に再び口付けされ、下半身もまさぐられる。


・・・まさか、本当に猿の前でエッチを実演して猿にマスターベーション教えるつもり!?


そんないけない事を教えて本当に猿が死ぬまで自慰をし続ければ、とんでもない事態だ。

まず、猿が可哀相なのは当たり前だが、『一人エッチし続ける猿』なんてなまじ人間と容姿が似てる分、公然猥褻な行為になって人前では展示出来なくなるではないか!

・・・どうすんだよっ!動物園に多大な被害を与えるぞっ!

・・・ニホンザルの損害賠償って幾らだ!?

しかし、そんな悠長な事を考えられるのも束の間。

くちゅくちゅと濡れた音を立てて舌を吸われると、千秋の頭は痺れて蕩けてしまい何も考えられなくなる。

吐息ごと意識まで奪うキスに自分からも舌を差し出し受け入れた。

「ぁ・・ん、ぅ・・・んむっ・・」

くぐもる声が漏れ、舌が絡み合い、唾液が混ざる。

もう此処が何処だろうと、そんなのはこの快感の前ではどうでも良かった。

「もっ・・・と・・ん、んっ・・・あふ・・・さわって、ぐちゃ・・ぐ、ちゃ・・・に弄って・・・っあぁん・・・」

「いやらしいな、千秋は。」

いやらしいと卑下されたって構わない。

欲しいものは欲しいのだから。

――だから、だから・・・トリ、お願い・・・


ズボンの隙間から差し込まれた羽鳥の指が下腹部を這い回り、千秋の薄い体毛をさわさわと撫でてゆく。

「もう、毛まで濡れてる・・・」

「あっ・・ぁあ・・・だって・・キス・・・気持ちい・・・から・・・や、トリ・・・毛を弄んなっ」

窮屈なズボンに勃起が押し込められているので、どうしても蜜を垂らす先端が陰毛に触れて濡らしてしまう。

そんなジワリと湿った薄い陰毛を指先でくるくると絡めるようにして遊ばれるのは、ほとんど拷問に等しい。

「千秋のズボンの中は湿っぽくて温かくて・・・ぬるぬるだな・・・こんな場所でもちゃんと欲情するんだ?」

「ん・・・ぁ、あっ・・やだ、トリ・・・恥ずか・・し・・・あ、あ、あっ・・・毛なんて触らなくていい、から・・・あっ、ん・・イかせ・・・てぇ・・・」

自分の身体を知り尽くした羽鳥の指に千秋は敏感過ぎるほど反応してしまい・・・


「んああぁっ・・・ぁアッ!!」

限界まで張り詰めていた性器を羽鳥に握られただけで千秋は呆気なく羽鳥の掌に白濁をぶちまけてしまった。


「・・ふ・・ふぁあ・・・ど、しよ・・出ちゃった・・・はぁ、はぁっ・・・」

「心配しなくていい。ほとんど俺の手で受け止めてるよ。ハンカチで拭ってやるからちょっとだけズボンの前を開けるぞ?」

羽鳥が気転を利かせてくれたおかげで千秋の下着は精液で濡れるのを免れたが、代わりに羽鳥の手を盛大に汚してしまう。

それでもこんな事態を招いたのは羽鳥なのだから、と千秋は謝る事はしないで後処理を羽鳥に任せた。

「・・・んっ、ぅ」

濡れた陰部が冷たい冬の風に晒されてしまう感覚も心地良くて、身体が跳ねた。

その上、射精して萎えているとは言え、他人からハンカチでペニスを拭かれる刺激で声が漏れる。

「何?気持ちいい?」

「・・・そりゃ、ね。」

『同じ男なんだから分かれよ!』との意味も含めて素っ気無く返事を返せば、羽鳥は地面に膝をついて甲斐甲斐しく残滓を拭い取ってくれる。

射精後の余韻も手伝って、羽鳥にこんなご奉仕をさせていると思うとそれだけで気持ち良くなってしまって、吐息を吐くと自分の腰の高さにある羽鳥の髪に指を潜り込ませた。

ふと、目線を上げると猿と目が合う。

発情してるであろう数頭のオス猿が一つの檻の中から千秋と羽鳥を見ている。

(・・・本当にエッチな事、教えちゃったのかな?でも、猿からは見えなかっただろうし・・・大丈夫、だよな?・・こんな気持ち良いこと知らないなんて可哀相だけど。)

つぶらな瞳の猿にじっと見られながら、千秋は変な優越感に浸っているのだった―――





――慌しい動物園デートから数日。



今日も今日とてネームの締め切りに追われる千秋。

その背後で腕を組み、般若のような怖い顔して待機する羽鳥。


あまりにもピリピリする険悪な空気にいたたまれなくなったアシスタントの女の子が雰囲気を変えようとテレビを点けた。

ピッ、という音と共に穏やかな昼さがりにはピッタリの旅情報番組が映し出され、生中継で実況されている。

その場所は偶然にも先日、羽鳥と千秋が訪れた動物園だった。



【はい、こちらは都内にあります動物園なのですが、ここに『ある事』をする猿が居るんです!今からその猿をお見せしますねー】

テンションの高い女性リポーターが張り切ってカメラを手招きした先に羽鳥と千秋はテレビに釘付けになる。

カメラが映し出すのは羽鳥と千秋がキスをして、おまけに『手コキ』で射精までした秘密の場所・・・・


(・・・まさか!?本当に猿が真似してオナニーしてるのかっ!?)

テレビを観る二人の顔がみるみる青ざめていく中、レポーターが実況を続ける。


【なんと!ここの猿達はキスするんですよっ!】


(・・・・キス?)



テレビ画面に映るのは股間にモザイクのかかった猿かと思っていた二人だが、どうやらそうではなく、『キスする猿』のほのぼの映像だった。

観れば、なるほど、猿がフレンチ・キッスをしている映像が映ってる。


「・・・・なんだぁ・・・キスか。」

ひと時とはいえ極度の緊張から解放されて羽鳥が安堵の息をつく。

「そりゃ、そうだよなぁ・・・所詮猿なんだからキスで充分だよ。」

青ざめた顔からにこやかな表情に戻った千秋も『あ、なんかネタ思いついた・・・動物園デートの話にしよう』とテレビを消してネーム作成に集中する。



しかし、テレビを消してしまったが為に、羽鳥と千秋は重大な事実を聞き逃した。




【本当にほのぼのとして可愛いですねー】

リポーターが猿の飼育員にマイクを向けてインタビューをしている。

【ええ・・・見た目にはキスしてて可愛く映るんですけど、困った事にこの猿達は『オス同士』でキスしてるんですよ。】

別段、生態系を脅かすような行為ではないものの、オス同士のキス行為に飼育員はほとほと困り果てている様子だった。


【ええーっ!オス同士でキスしてるんですか!?もしかして来園者の中で男同士でキスしてる現場を猿が見ちゃったんじゃないですかー?】

何気ないリポーターの一言はビンゴだったが、猿は何も答えない。

ただ、オス同士であるにも関わらずチュッチュッ、チュッチュッとキスをするだけ・・・

【はははっ、まさか、そんな事ある訳ないですよー!】

【ですよねー!あはははっ!】

現場では和やかで楽しげな笑いがいつまでも冬の空に木霊していた―――






*****

へんたーい、と・ま・れ。


前半までは『シリアスで甘い話』の予定でした。
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