羽鳥×千秋

□笑顔の行方(1)
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―――翌日。

千秋が目覚めたのは、まだ陽も昇りきらない薄暗い早朝だった。

これまでの生活からして、こんな早朝まで起きている事はあっても目覚める事は無いので、ニワトリ並の朝の早さに千秋は感動すら覚えた。

だが、瞬間、千秋は自分が自分の寝室で目覚めた事に違和感を持つ。

「・・・ん?なんで、俺は俺ん家に?」

当たり前の事に疑問を抱くのが不思議だった千秋は、まだ眠り足りないと訴えている頭でぼんやりと考える。

しかし、なかなか思考回路が上手く回らなくて、苛立った。

「あーっ、もうっ!エッチし過ぎたから疲れて頭が回らないっ!」

性行為による疲労は限りなく深い眠りをもたらし、その結果、記憶を奪っているのだと千秋は気付く。


「・・・・・え?エッチ??」

自分の言った言葉に驚いた千秋は、次の瞬間記憶が繋がるものを感じて飛び起きた。

「ひゃあっ!!!?」

起き上がった途端、股間からドロリとした粘液が伝い落ちた感覚に悲鳴を上げた。

「なに?なに?なに・・・コレ・・・下着が・・濡れちゃったけど、コレって・・・アレだよな?」

パジャマだけど服は着ている。

もちろん下着だって着用してるけど、その下着は陰部から滴った液体を受け止めたせいでしっとりと濡れてしまった。

思わず千秋はズボンのウエストのゴムに手をかけて引っ張り、隙間から下着をずらして中を覗き込む。

・・・そこには見慣れた体液が布と肌の間でネッチャリと糸を引いていた。

言わずと知れた『精液』だ。

それは自分が吐き出したモノでは無い証明に、下着を濡らす精液は千秋のアナルから垂れている。

しかも大量な上に、時間が経ってから排出されたため凝固しかかっている。

これまでの経験上、腸内に精液を溜め込んでいると腹痛の原因になると知っていた千秋は防衛本能のままに残滓を掻き出そうとアナルに手を伸ばした。


「・・・んっ!痛いっ・・・」

一度寝てしまった身体はすっかり硬くなっていて、陰部も同様に堅く閉ざされてしまっている。

そこへ無理矢理、指を2本も突っ込んだものだから千秋は苦痛に唸り声をあげてしまう。

「出さなきゃ・・・やばい・・・」

痛みに顔を歪ませながらも、残滓を掻き出さなければもっと痛い思いをするので千秋は意を決して作業を進めた。

ベッドの上で一人、膝立ちになってグチュ、グチュ、と陰部を弄り後処理をしていると、知らずに千秋の瞳には涙が浮かんで来る。

痛みを堪えながら一人で陰部を弄っているのがあまりにも惨めで、情けなくて・・・

でも、それ以上に恐ろしくて、不安が押し寄せた。


「・・・・誰の・・・だよ?」


―――今、この手の中に滴り落ちてくる精液は『誰の』?

ポタポタと掻き出される残滓に合わせて、千秋の瞳からも涙が零れる。

涙で滲む視界が見たくも無い下肢を遮っていくけれど、見えなければそれだけ感覚が鋭くなり、生温かい他人の残滓を尚更鮮明に感じてしまう。


「なぁ・・・これって・・・どっちの、だよ?」

誰も応えてはくれない自分一人だけの部屋で、千秋は答えを求めた。

―――自分の体内に残された、この名残は『どっちの』?



 トリ、なのか?

 優、なのか?


眠り続けていた千秋はその答えを知らない。

その事が酷く罪深いように思えて、千秋はゾクリと悪寒が走るのを感じた。

 羽鳥と、優・・・

そのどちらに自分が抱かれたのか分からないなんて。

記憶の最後に居た場所は優の家であり、最後に顔を合わしていたのも優だ。

しかし、目覚めたのは自分の家で、確認した訳ではないがこの家に自分を運んだのは羽鳥だと断言出来る。

どちらにも自分を犯す事は出来たし、もしかしたら優に抱かれた後、羽鳥に抱かれた――という可能性だって捨て切れない。


・・・あるいは二人して同時に意識の無い自分を?


「ナイナイナイッ!!それは絶対にナイッ!!」

恐ろしい妄想をしてしまった千秋は、頭をブンブン振り乱し、思い浮かんだ情景を振り消した。

そうすると勢いで下着から手を引っこ抜いてしまい、残滓で濡れそぼつ自分の掌を改めて見てしまう。

「・・・なんにせよ・・・犯られちゃったのには変わりないんだよな・・・」

粘液が絡み卑猥にテラテラと光る自分の掌を鎮痛の思いで眺めながら、千秋は逃げ切れない現実に目を向けた。

意識が無い人間を犯すなんて卑怯で最低な行為だろうけど、そうさせたのは自分なのだ・・・


―――ずっと3人でいたい。

大切な友人で、かけがえのない恋人で・・・だからどっちも比べる事なんて出来なくて。

―――どっちも好き。

節操の無い考えで、曖昧な関係に甘えていた自分が引き起こした結果がこれだ。

いわば、天罰が下ったのだ。

すべての非は自分にあって、羽鳥も優も千秋のわがままに振り回され、苦しんだ被害者に他ならない。

誰も恨む事なんて出来ない。

罰を受けるのは自分―――


千秋は濡れた掌をズボンで無造作に拭うと、涙も同じようにパジャマの裾で拭き取った。

そして携帯電話を手にするとアドレス帳を検索して電話をかけた。


繋がった先は丸川書店、エメラルド編集部の編集長である高野。


その高野に電話が繋がると、千秋は挨拶もそこそこに願いを申し出る。



―――羽鳥を自分の担当編集から外して欲しい、と―――





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つづく。
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