テロリスト

□Destiny〜運命〜
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「やっぱりぶかぶかだな・・・」
宮城は『忍』と名づけた少年を前に険しい顔をする。

雪の中にセーター一枚だけで裏庭に座り込んでいる少年をさすがに放っておくわけにもいかず、宮城は少年を部屋に連れて来た。

部屋に戻るまでに羽の生えた少年をマンションの住人に見られてはどうしようかと冷や汗ものだったが、何とか無事に見られずに済んだ。

そして、今。
天使は雪で濡れた服を脱がされ、代わりに宮城のシャツとイージーパンツを身にまとい突っ立っている。

驚いた事に背中にある羽は服を通り抜けて、今も立派に生えている。

「俺の服じゃその細い身体には合わないな・・お前、やたら華奢だよな。もしかして女だったか?・・・いや、待てよ。天使だから性別とか無いのか?」
会話はずっと宮城の一方通行だった。
口がきけないのか、しゃべりたくないのか・・忍は一言も言葉を発しない。

意思の疎通が出来ない天使と二人きり。
それでも不思議と違和感がない。

むしろ、一人でこの広い部屋を持て余していた時の方が違和感があった。
いや、以前に元嫁と新婚生活を送っている時よりも、今、連れ込んだばかりの天使と居る方がしっくりくる。

やはり、これは天使の成せる技か!?と考え込んでいると、天使は何が気に入らないのか折角着せた服を脱ぎ出してしまう。

「こらこらこらっ!!待たないか!服を脱ぐんじゃないっ・・・ああ、ズボンのウエストが合わないのか・・・」
ズボンがずり落ちるのをどうする事も出来ず、忍はズボンを完全に脱いでしまいシャツ一枚だけの姿になってしまった。

大き目のシャツなのでかろうじて太腿あたりまで足を隠してはいるが、これはこれで結構色っぽい眺めだったりする・・・

「・・・って、俺は何を考えているんだ?」

赤面しつつ、突っ立ったままの忍をソファーに座らせとりあえず暖かい飲み物を手渡してみた。

「飲めるか?それとも天使にミルク紅茶なんて飲ませて大丈夫かな?」
少し冷たい忍の掌に暖かいカップを包ませて、宮城は紅茶を飲むように口元に誘導してやる。

「温かくて、甘いから飲んでごらん」
不思議そうな瞳で宮城とカップを交互に見ている忍に宮城は微笑んでやると、忍は素直にカップに口をつける。

「美味いか?」
問いかけてもやはり返事は無いが、紅茶を一生懸命すすっている所を見ると気に入ってくれたようだ。

「なんか・・・・ふわふわしてるな、お前。」
紅茶を飲む忍を見つめ、宮城は心に思った事を言葉にする。

そう、ふわふわしている。
天使の羽があるから・・・という理由ではなく、全体的な雰囲気がそうなのだ。

雰囲気や容姿だけじゃなく、忍の印象も、宮城が忍に対してそう思わせる。

『ふわふわしていて、すぐに消えてしまいそうだ・・・』

それは、忍が消えて欲しくないと思う宮城の願いなのかも知れない。

自分は自分が思う以上に寂しかったのだろう・・
それさえ感じる事もなく自分を誤魔化して日々の日常を過ごして来たのに、ここにきて、ここで天使を拾って、『一人じゃない』と認識させられると言い様の無い一抹の寂しさに捕らわれてしまった。

それに・・・・
天使に逢うのは忍で『二度目』になる。

忍を見ていると嫌でも思い出す。
天に召された『あの人』を・・・

死と隣り合わせに生きた『あの人』はこの世に終わりを告げるまで毅然とした態度をとり続け最後まで宮城の『教師』でいてくれた。

忘れられないのではなく、忘れたくない人。

それは重々承知の上でいつまでも『あの人』に捕らわれている自分にも呆れていた。


「・・・忍は天に還るのか?」
-----『あの人のように・・・』

ソファーに腰掛ける天使の忍に宮城は隣に座り問いかける。
問いかける・・と、いうより『行かないでくれ』と頼み込んでいるような言葉だ。

 ふわ……・・・。

手にしていたカップはいつの間にか無くなっていて、代わりに忍の掌は宮城の頬に添えられていた。

紅茶のカップで温められたであろう掌は涙が出そうなほど暖かく、宮城の頬を包む。

両手で頬を挟まれているせいじゃなく、宮城は動けないまま忍と見詰め合う。

・・・ああ、やっぱりこいつはふわふわしてる・・・
掴み所が無くて、自分勝手で、自由で。
それでいて気まぐれに舞い降りてくる・・・

 雪、みたいに。



…ちゅ。


まるで、羽が触れたのかと思わせるキスだった。

唇の重なりは雪が溶ける様に一瞬で。

 俺は、天使にキスをされた。


再び見つめ合えた忍は、その瞬間、やっと言葉を話してくれる・・・



-----『俺を見つけてくれる?

 だって、そういう運命だから・・・』


そうして天使は微笑むと、ふわり。と、その姿を消した------------







それから数日後。

宮城のマンションに一本の電話がかかってくる。

『話があるから出てきて欲しい』というぶっきらぼうな電話の主に、宮城はどこか期待に胸を膨らませて出かけるのだった。




-----『見つけてやるよ。

 だって、そうゆう運命なんだろ?』






〜fin〜
*********

宮城が忍に逢う前の、ちょっと不思議な話を書いてみたかったのですよ。
頑張りました、ファンタジーです。

お付き合い、ありがとうございます。

何を隠そう私はテロも大好きさっ!!
年の差が何とも言えず…ふふ…。
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