羽鳥×千秋

□トリはファンキー・モンキー!
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子供の頃、風邪をひいて行けなかった遠足。

泣いてばかりのそんな俺を見かねて、トリが動物園に連れて行ってくれた。


大人になった今。


今度は俺がトリを動物園に連れて行ってあげたい・・・って、思ったんだ。



「トリー、トリ、見て見てっ!」

原稿明けが済んでのんびり出来る貴重な日の昼下がりに、千秋はテレビを指差し歓喜の声を上げた。

「うるさい。体力消耗してヘロへロ状態なんだから、あんまりはしゃぐな。」

千秋がテレビだけで浮かれているわけじゃないのは羽鳥にだって分かっている。

原稿に費やした為に落ちた体力と体重を取り戻すべく、羽鳥による手料理がキッチンで作られているからだ。

それでも千秋は事の他嬉しそうに。

羽鳥という存在があるだけで嬉しい…、といったような態度で羽鳥に駆け寄って来る。

それがまた、羽鳥にも嬉しくて。


「いいから、テレビ観て。『猿ダンゴ』だって。可愛いー」

「・・・さる、だんご?」

聞きなれない言葉に、包丁を持つ手を止めてテレビを観れば、なるほど、猿団子らしきものがニュースで伝えられていた。

テレビに映っているのは動物園で飼育されている何の変哲もないニホンザルの集団が紹介されているだけ。

それだけならニュースには撮り出されたりはしないが、そのニホンザルというのが寒さをしのぐ為に互いに体を寄せ合い一塊になっていて、その光景がまるで猿で出来た団子のようになっているから・・・

・・・猿団子、というワケだ。


「なぁ、この猿団子が見れる動物園ってこの近くにあるんだよな。折角だから見に行こうぜ。」

「この寒いのに、動物園?」

「寒いから猿団子が見れるんじゃん!」

「その歳で動物園?」

「いつまでも子供心を忘れない大人になろう!」

まるで、『今度の休みには動物園に連れて行ってーパパー』的な千秋に現在進行形で母親をしてる羽鳥は眉間にシワを寄せるしかない。

それでもここ最近は忙しくて二人で出かける事もなかったし、千秋が原稿を珍しくデッド入稿しなかった褒美に行きたい場所に連れて行ってやってもバチは当たらないだろう。

そう考え直した羽鳥は、もったいぶる様に溜息をひとつついてから動物園に行く事に同意するのだった。


そして、その約束の日。

平日しか時間に余裕の無かった羽鳥の都合に合わせて動物園に来たのはいいが・・・


「どうする?閉園ギリギリだが・・・」

「ここまで来たんだから入るっ!今度ってなると、もう絶対来ないじゃん!」

羽鳥に急な仕事が入ったせいで動物園に着いた時は、もうすでに閉園2時間前という残念な有様だった。

それでも『今度、また。』の約束など簡単に反故されるのを知っている千秋は、残り少ない時間でも入園する事を選ぶ。

しかも、タイミングがいいと言うか、なんと言うか・・・

閉園前の平日の動物園に来園者はほとんど無く、オマケに雪まで降っている。

「マフラーして来なかったのか?吉野?首が寒そうだ。」

「慌ててたからな。でも、平気、歩いてればそんなに寒く・・・・」

『寒くない。』と言い終わる前に、ふわり、と千秋の首にマフラーが巻かれた。

小柄な千秋には少し大きくて長めのそれは、さっきまで羽鳥の首に巻かれていたマフラーだ。

巻かれた途端に感じる羽鳥のぬくもり。

自分が感じてる以上に首元は冷えていたのか、温かいマフラーなのにすぐに千秋の冷えた肌のせいで熱が失われていく。

「ちょ、トリ・・・マフラーは、普通に巻けよっ!何でリボン結び!?」

羽鳥だって同じように寒いのだから断ろうとしたが、マフラーの巻かれ方に千秋が暴れる。

羽鳥が千秋に巻いたマフラーは、首の後ろで大きくリボン結びされている状態なので女の子みたいだし、それになにより・・・

「・・・プレゼントみたいだな。」

「分かってるならこんなリボンに結ぶなっ!解けって!」

そう。後でふわふわしてるマフラーは千秋自身がプレゼントみたいになっていて、それを羽鳥が確信犯でしてるものだから余計恥ずかしい。


「そのままで居ろ。さっさと歩かないと閉園時間で締め出される。」

「わわ・・・トリ、待って。」

確かに時間は無い。

でも、恥ずかしいものは恥ずかしい。

でも、でも、羽鳥のぬくもりを失いたくない。

そんな心情に翻弄されるまま、千秋はぎゃあぎゃあと抗議の声をあげてはいるが、マフラーを外しはしなかった。

「本当にうるさいな、お前は・・・」

「騒いでないと恥ずかしいからだっ!一体全体、誰のせいだと・・・」

前を歩く羽鳥の背後を、息を切らせて追いかける千秋。

そんな千秋に向かい、羽鳥がおもむろに口元を綻ばせ、笑った唇の形のまま呟いた。



「・・・・可愛いよ、千秋。」

「へ!?」

―――可愛い?

可愛いって言った?

30近い男に向かって、同じく30近い男が?

言われた言葉を心の中で復唱し確認するや否や、千秋の顔はぶわわわっ、と赤面した。


「・・・少なくとも、あの『猿団子』より、な。」

「はぁ!?猿ぅ?」

『なんでこのタイミングで猿なんだよ!?』、と言い掛けて、千秋は自分達が猿を目的にして動物園に来た事を再確認した。

そして怒りも忘れ、立ち止まる羽鳥の腕を無意識にぎゅっ、と掴むと前方に広がる猿山に目を向ける。


「わぁ!ほんとに団子になってる!」

「ああ。そうだな。」

柵で覆われた山の中腹で身を寄せ合う猿の塊を見て、千秋は『テレビと一緒だ』と騒いでは目を輝かせている。

一方、羽鳥はピョンピョン跳ねそうな千秋に腕を掴まれながら、目を細めて猿ではなく千秋を見つめ続けた。

「・・・な、なに?じっと見てんだよ?」

鈍感な千秋もさすがに羽鳥の熱い視線に気付いたらしく、急にテンションを下げて、代わりに視線を羽鳥に向って上げた。

白い息を弾ませ、上気した頬を赤らめ、上目遣いに見上げる千秋の首にはリボン。

その上、腕を掴まれていてはまさしく『オレがプレゼント』と言わんばかりに可愛くて。


「ちょっと、裏の方に回るぞ・・・・我慢出来なくなった。」

「は?我慢?なに?」

寒くて我慢出来ないから、風の当たらない裏に回るのだろうか?、とその時の千秋は疑いもせず羽鳥に連れられるまま歩いた。


そして辿り着いた先で、千秋は鈍感な自分を激しく呪うのだ―――
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