羽鳥×千秋

□笑顔の行方(1)
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―――『千秋はいつまでもお前のものではない。』

優にそう直接言われたようで、羽鳥の心は激しく動揺していた。

 分かっている。

 覚悟はしている。

いつか、捨てられるかも知れないと

いつか、その瞳に俺が映らなくなる日が来ると

身体を手に入れたところで、心まで手に入るなんて考えては無い。

 

初めて千秋を抱いた時から―――

―――俺の方が『千秋のもの』になっていた





優の家から乗り付けてきたタクシーをマンションの入り口ギリギリにまでつけて降りた羽鳥の腕には、いまだに眠りから覚めない千秋がいる。

千秋のマンションに着いた羽鳥だが、玄関ホールの扉の開閉やエレベーターの昇降がいつもより時間が掛かるように感じるのは自分が苛立っている証拠だ。

意識の無い千秋と一緒に抱えていた鞄から千秋の家の鍵を出して、かって知ったる要領で寝室に向かいベッドに寝転ばせた。

ここまでの一連の動作にも起きない千秋。


優に薬を盛られていたとしても、優の事だから千秋の体に害を及ぼすような危険な薬は使わない筈だ。

恐らく病院で処方されるような極簡単に手に入る睡眠系の薬なのだろうと思うが、仕事明けの弱った身体と、暗示にかかりやすい体質のせいで予想以上の効き目が発揮されたのだろう。

少女漫画家という人に感動を与える仕事をしている分、千秋は他のものに対して感情移入しやすい。

そこへもって『お前は眠くなる』だの『身体が動かなくなる』だの言われると、素人にでも簡単に催眠術にかけられる精神面の弱さがあった。

今、こうして眠りについているのは千秋の体が疲労を訴え睡眠を要求した事と千秋自身が耐え切れない状況に立たされて意識を手放そうと自己暗示をかけた結果、深い眠りについているのだと羽鳥は予想した。


―――自分自身が耐え切れないと判断した状況。

それは、自分が優に犯されるという恐怖を目の当たりにしたから。

それとも、例え犯されても自分の知らない内に終わってしまっていて欲しいとのせめてもの願いから・・・のどちらかか、もしくは両者の理由で眠ったか・・・



「・・・柳瀬に何をされた?千秋?」

正確には『どこまで犯された?』と、羽鳥は返事の返って来ない千秋に向かい問いかける。

その答えは、千秋自身ではなく・・・・

 千秋の体が知っている。

さっきまで感じていた苛立ちに不愉快な気分と、優に対する憎悪が加わる。

どこまで、その髪を撫でられた?

どこまで、その唇を奪われた?

どこまで、その肌を晒した?

どこまで、その身体を許した?

醜い嫉妬が炎になって、自分の身体を取り巻き、骨や臓腑をも焼き尽くしそうだった。

まるで、業火に焼かれる罪人が聖水に縋るが如く――

―――羽鳥は千秋の衣服に手をかけ、荒々しく布を剥ぎ取っていく・・・

乱れていなかった衣服だけで千秋が犯されていないかどうかの判断材料にはならない。

直接この眼で見て、じかに触れないと確かめられない。

肌蹴た服から露になる凹凸のない薄い胸に、羽鳥の冷たい指先が千秋の体温を奪うように滑る。

陥没して尖りの先端すら在り処の分からない乳首に、誰の愛撫も与えられていない事を感じ取れば、次なる場所を探る為に羽鳥の手は布を掻き分け押し下がっていった。

ズボンのフロントホックを外せば、事務的な作業でもこなすみたいに下着ごと千秋の下肢から全ての衣服を抜き取る。

眠る千秋。

何も知らない千秋。

当然、薄いしげみには萎えたままの男性器がくたりと倒れて、ひっそりと息づいていた。

いつもなら外気に晒される前からソレは敏感に反応し、触れられて貰いたくて体液を滲ませ孤立しているのに今は持ち主と同じく眠っている。

完全に包皮をまとったペニスには射精した痕跡がないけれど、千秋が射精しようがしなかろうが寝込みを襲われて犯されたならそれは関係ない。

問題は、優が千秋と身体を繋げ、千秋の体内に己の子種を注いだかどうか・・・なのだ。

下半身を丸出しにして仰向けに寝転ぶ千秋の膝を立てて、M字の形で押さえる。


『やだっ、トリ・・・見るなっ!』

いつもの調子で千秋の拒絶する声が聞こえてきそうだった。

それほどまでに自分達は行為の回数を重ね、手順までも身体に滲み込み、その時々で発せられる喘ぎ声までもが耳に残っているのだ。

その千秋の声に煽られて、羽鳥は快楽を与えていく・・・けれど、それが今は無い。

確かめるだのと言い繕っても、合意の上ではない辱めは強姦そのものであり、千秋にしてみれば、羽鳥にも優と同じ事をされているのに他ならない。

―――『いや。自分の方が酷い。』と羽鳥は思い至る


やり場の無い苛立ちに、羽鳥はチッと舌打ちをすると、意のままに千秋の窄まりへと手を伸ばした。


乾いているはずの蕾には、しっとりと湿り気があった。

この湿るものの正体が何であるかを見極める為、指を潜り込ませる。

…くちっ、と襞が拡がり、濡れる肉の割れる音が鳴ると、羽鳥は奥までは指を入れずに入り口の浅い場所を弄り出した。

途端に指先に絡みつく粘液。

眉を寄せて苦々しい表情をした羽鳥はすぐさま2本目の指をねじ込み、一気に奥まで突き入れた。


「・・・ぅ・・んっ」


アナルに異物を感じた千秋が意識のないまま唸り声を上げて身じろぐ。

その身動きに合わせ指を引き抜いたので千秋は夢見心地のまま何事も無かったように眠りに戻るが、窄まりだけは別の生き物のように中途半端な愛撫を不服そうにして蠢いていた。

「・・・・潤滑剤、か。」

千秋の様子を窺いつつ、アナルから引き抜いた指を見れば、透明でとろみのある液体が指に絡まり雫を垂らしている。

愛撫を失ったばかりのアナルからも指を追いかけるようにして、トロ…と液体が吐き出された。

明らかに精液ではない透明に輝く潤滑剤が、千秋と優の間で性行為が行われなかった事の証となった。

・・・千秋は犯されていない。

この身体は、まだ、自分以外の男を知らない。

しかし、それが証明されたところで羽鳥の苛立ちが収まる要因にはならない・・・


「柳瀬にアナルを弄られて、気持ち良かったか?」

最後まで犯されてないとは言え、優の指が、視線が、千秋に注がれたのだと、体内に注入された潤滑剤が物語っていて・・・


―――どうして俺のものにならない?



拭いきれない焦燥感が羽鳥を支配する。


「それだけ準備されちまってたら、いきなり突っ込んでも大丈夫だよな?」


力ない柔らかな肢体。

すらりと伸びる細い足を開かせ、その間に自分の胴体を潜り込ませた。

逃げやしないと分かっていても、腰を掴み固定するのは、もうクセのようなものになっている。

潤滑剤の滲む蕾に、先走りで粘る先端を押し付けると、それだけで千秋のアナルは吸い付いてこようとした。

(・・・・大丈夫。目を覚まさない。)

誰かが、羽鳥を安心させるように呟いてくれる。

抱かれ慣れた体は貫かれて得られる快感を享受していて、挿入と同時により深い場所への刺激を勝手に求めるだろう。


幼い顔つきとは正反対の淫乱な身体。

だが、そうなるようにしたのは、羽鳥自身なのだから・・・・

静まり返る寝室に衣擦れの音がすると、その後にジー…、というチャックが引き下ろされる音が続く。

投げ出されたまま放って置かれて切なげにヒクついていた窄まりに、形を変えて漲る羽鳥の熱根が押し付けられた。

羽鳥から分泌された先走り液と、千秋の秘部に塗り込められた潤滑剤のおかげでソコは何の抵抗も無く羽鳥の先端を受け入れ―――

全てを咥え込むことに、喜びでもって締め付ける。



―――眠る身体を。

―――意識の無い千秋を。


 羽鳥は犯した。
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