羽鳥×千秋

□笑顔の向こう側@
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〜はじめに〜

どうも、閲覧頂き有難う御座います。

いまだに『世界一初恋』〜吉野千秋の場合〜の原作を入手していない夢民です。

アニメでの千秋さんにどうしようもなく萌えてしまい、性懲りも無くまた書いてしまいました…。

多少…、いえ、かなりの設定間違いやキャラ崩壊があるかとは思われますが、寛大な心で読んで頂けると嬉しいです。







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新しい街。

新しい学校。

引越して来たのは中学生の頃。

何もかもが初めてで分からない事だらけの転校初日、俺はまだ短い人生の途中で生涯忘れられなくなる程の『骨格』に出合った。

成長過程である中学生だというのを差し引いても華奢で小柄な体型は、ひらたく言えば幼児体型で悪く言えば骸骨のようだ。

でも、それが、功を奏して美しい骨格を惹き立たせる結果となる。

その均整のとれた完璧とも言える骨格の持ち主は・・・『吉野千秋』と名乗り、俺に教科書を見せてくれて・・・



―――俺の初恋を奪った。




そして、それから月日は流れ・・・

初恋は初恋のまま、俺達は社会人になっていた。



「優、助かったよ〜!俺、今回はマジでもうダメだと覚悟した・・・優のおかげだよっ!感謝感謝っ。」

情け無い泣き言と、感激の言葉を入り乱せて、千秋は優に向かい拝むように両手を合わせてヘナヘナと床に崩れ落ちた。

「毎度毎度、ダメだダメだの連発でお前みたいな漫画家はそう居ないぞ?たまには手を抜く事も考えろよ。」

締め切りの日を何とか乗り切り、アシスタントが引き払った後、千秋と優でいつも繰り返される反省会。

何かと小言を言われるけれど、千秋は優との反省会を苦にはしていない。

なぜなら毎月繰り広げられる優との反省会より、年に一度開催される『トリとの年末大反省会』の方が余程恐ろしいのだから・・・


「あ・・・・もうすぐ年末だな・・・オレ、今、すっげぇ嫌な事思い出した・・・」

トリとの悲惨だった去年の反省会を思い出し、千秋は力尽き床に寝そべってしまう。

「おいおい、床に寝るなよ。いい大人が。」

「うぅ〜…ソファーが果てしなく遠い・・・」

車に轢かれたヒキガエルさながらに、千秋は床を這い蹲りソファーを目指す。

そんな無様で目に余る千秋の姿を見て、優は背後から千秋の脇に手を差し込むとヒョイッと掬い上げてソファーに乗せた。

乗せた・・・と、いっても背後から抱えてるので正確には、千秋はソファーに座る優の膝の上に乗せられた。

「・・・なに?この体制?」

「ん?名づけるとすれば『背面座位で抱っこ』かな?」

千秋の背中が優の胸と密着していて、優が話す度に千秋のうなじに吐息が掛かる。

「優・・・ちょっ・・」

恥ずかしいから離せよ・・、と言い掛けたと同時にドアが開く。



「・・・・無事、入稿が済んだぞ。」

相変わらずの仏頂面と低いトーンの声。

それは、入稿が済めば必ず訪れるエメラルド編集者の『羽鳥芳雪』


―――千秋の担当編集者であり、千秋の『恋人』


「あっ、トリッ!ありがと。来てくれたんだ!お腹空いた〜っ!」

羽鳥の陰湿な態度とは対象的に、千秋は嬉しそうな弾む声で優の膝から降りると羽鳥を出迎えに駆け出す。

原稿が済めば必ず顔を出し、ケーキやお菓子の土産を差し入れると、羽鳥は体重と体力の落ちた千秋の為にご飯を作る。

そのせいで千秋は羽鳥を見るとご飯だケーキだとばかりに反応し、パブロフの犬の如く尻尾を振るようになっていた。


「おおっ!クマヤ堂のケーキじゃんっ!食べたかったんだよなぁ〜、ねぇ、トリ、オレから先に選んでもいい?」

手渡されたケーキをキッチンで物色してる千秋に羽鳥は『勝手にしろ』とだけ言い放ち、いまだソファーに腰掛けたままの優を好戦的な目で見下ろす。

物言わぬ羽鳥の敵意を受けて、優は余裕の笑みを浮かべて立ち上がる。


「餌付けは順調みたいだね・・・でも、そんな子供騙しな手法で上手くいくと思って安心してると足元を掬われるよ?」

クスッと笑う優の端正な顔が冷たい印象を残し、羽鳥の横をすり抜けて行った。


ケーキを見てはしゃぐ千秋は二人の間でそんな陰険な空気が流れていた事など露知らず、帰り支度してる優に声を掛ける。


「あれ?優っ。帰るの?ケーキ食べて行かないのか?」

「悪い。俺まだアシの仕事あるから帰るわ。」

羽鳥の時とは打って変わる物柔らかな表情で千秋の誘いを断ると、優は荷物を持って帰ってしまった。



残された部屋には千秋と羽鳥のふたりだけ。

その途端に空気は重苦しいものに変わるけど、千秋は気付かないフリをする。

なぜなら、そんな雰囲気を醸し出す時の羽鳥は底知れぬ怒りに満ちているからだ。

しかもその羽鳥が大魔神の如く自分に近づいて来るとなると心拍数も上昇の一途を辿る。

「えと・・・トリ・・・ケーキは?」

「要らん。」

「あの、じゃ・・・コーヒーでも・・・」

徐々に距離を詰めてくるトリが異様に怖くなり、千秋は逃げるようにキッチンの奥へと行こうとしたが・・・


「うわぁっ!!?」


距離を広げる前にあっさりと背後から羽交い絞めに近い状態で捕獲された千秋。

逞しい腕にきつく抱きしめられ、厚い胸板に細い体がスッポリと収まってしまった。

「・・・な・・・何?トリ・・どうし」

動揺を隠そうとするも千秋の声はうわずって震えていた。

「柳瀬には気を許すなと言ってるだろう?言ってる側から何なんだ!?お前は!何ソファーの上で柳瀬に抱かれているんだ!?」

さっきまで優の息を感じていたうなじで、今度は羽鳥の息を感じる千秋は鼓動の高鳴りを抑え切れない。

背後から同じように抱きしめられても、優と羽鳥とでは状況が違ってくる。

「あ・・あれは、俺が疲れててフラフラしてたから・・・優に支えられて・・」

自分でもどうして優に抱っこされていたのか良く分からないので、適当に言い繕う。

「お前なぁ、もう忘れたのか!?柳瀬に押し倒されて何されたか!!」

「・・・うっ!?」

痛いところを突かれて、千秋は言葉を詰まらせた。



―――優に何をされたか・・・

 優の家で。ふたりだけの部屋で。

畳に零れるビールの音だけが、今もまだ耳について離れない。

痛いくらいに掴まれた手首の熱さですらも、まだ、残っている。


友達だと、仕事での大事な仲間だと思っていた優に千秋は押し倒され、キスをされ・・・

『好きだ』って告白されて


―――そして、優を思いっきり『グー』で殴り・・・

  優を傷つけたんだ。

『心』も『体』も。



「吉野、覚えておけ・・・優しさや同情は場合によっては残酷なだけだ。」

「・・・・」

重く感情の篭る羽鳥の声が聞こえると、体の拘束も解かれ千秋を苦しめていた圧迫が無くなった。

それでも。

その代わりに。

『心の圧迫』が千秋に圧し掛かってしまった。

 苦しい。

 すごく、苦しい。


・・・自分を好きだと言ってくれた優の気持ちに応える事は出来ない。

優から告白された時、千秋は『トリじゃないとダメなんだ』とハッキリ言ったけど・・・


優を傷つけておきながら、まだ優との友人関係を終わらせたくない卑怯な自分がいる。


期待させるだけの優しさが残酷だと言うのなら・・・


―――きっと、自分は『世界一残酷な仕打ち』を優に与えているに違いない。
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