『奥の細道』

□奥の細道O
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「ヒロさん、そこの包帯を取って貰えますか?」

「あ、はい・・・」

テキパキと治療を施す野分を一瞬『お医者さんみたいだ』なんて思った自分を弘樹は苦笑する。

もしくは、自分は思う以上に動揺しているのかも知れない。

こんなにも傷ついて横たわる忍を目の当たりにしているから・・・・


洗面器に張ったお湯をタオルに浸し、適度に絞ると弘樹はそれで忍の体を拭う。

救急病院の前に放置された忍を野分の一存で家に連れて帰って来たが、それは間違いではなかったと弘樹は思う。

殴られたであろう頬は紫色に変色して腫れ上がり、床に押さえつけられた肩は擦り傷が幾つも出来て血が滲んでいる。

手首にも、足首にも、誰かに掴まれた青あざがくっきりと浮かんでいて複数による暴力が窺えた。

しかし、それよりも弘樹が許せないと思うのは全身にこびりつく男の残滓・・・・


弘樹は手にしたタオルで忍の体につけられた欲望の証を先程から丁寧に拭い取っているのだが、範囲が広すぎてタオルを洗うたびに洗面器のお湯は濁ってしまう。

特に顔に多くかけられているので髪に付いた精液は固まってしまい、早く綺麗にしてやりたいが取るのに手間取る。

そうして犯人達の非道に怒りを覚えながら口周りにタオルを押し付けると・・・

「わっ、野分!?忍くんの口から血が・・っ」

顔を横に向けた途端、忍の口端からツツーと流れ出た血に弘樹は驚き、野分に助けを求めた。

「ああ・・・心配ありませんよ。口内のどこかを切っているんでしょう・・・殴られて切れたのか、無理矢理口を開けさせられて爪で切れたのかのどちらかだと思います。」

「・・・どっちもだろ?」

殴られた上に、口を開けさせられて口内が傷ついたのだ。

その証拠に血に混じって残滓も流れている。

レイプ犯は嫌がる忍の口に性器を突っ込み、拒めば暴力を振るって言う事を聞かせていた。

そして、ついには違法ドラッグを使い、忍の精神を崩壊させて非道の限りを尽くしたに違いなかった。

「ヒロさん、怪我をした所の治療は済みました・・・薬物によるショックも完全に抜けているのでもう大丈夫だと思います・・・そろそろ宮城教授に連絡を・・・」

治療を終えた野分の隣で、弘樹はまだ忍の体を拭っていた。

「待ってくれ・・・もう少し・・もっと綺麗にしてから・・・他の男の精液を残したまま教授に会わせてやりたくない・・」

今頃は宮城が忍を探して必死なのは分かっているが、それでも陵辱の跡が残る体を宮城には見せたくなかった。

それは、もし自分がレイプされたなら、たとえそれが分かったとしても汚れた体を見られたくないと、弘樹は忍に起きた事を自分に置き変えてそう思った。

「野分・・・すまないが席を外してくれないか?」

「ええ・・・分かりました。」

野分を部屋の外に追い出して、弘樹は最後に残った部分の洗浄を行う。

一番陵辱を受けた後孔をなぜか野分には見せたくなくて弘樹は一人で忍の下肢を拭った。





弘樹が宮城に電話をした時、宮城は電話の向こうでかなり息を切らせていた。

『忍くんは俺の家に居ます』とだけ告げると、何も言わずに電話が切れて、ものの数分も経たない内に宮城がドアを開けて入って来た。


「・・・どう言う事だよ・・・これ?」

開口一番にそれだけを言うと、体中に包帯を巻いてベットに横たわる忍を見て、宮城は驚愕に震えて立ち尽くしている。

「病院の前に置き去りにされていたのを俺とヒロさんが偶然発見して連れて帰って来ました・・・体の傷は治療も済みましたので心配ありませんが・・・ドラックによる後遺症はこの後出てくるかも知れません」

「・・・ドラックって・・・忍が?」

掠れる震えた声で、宮城は野分に説明を求めた。

「レイプする際、抵抗する忍くんにドラックを使い、強姦を円滑に進められるようにしたのだと思います・・・忍くんの場合は複数の薬を乱用されたせいでショックを起したんです・・・それに慌てた犯人が忍くんを病院の前に・・・」

その話を聞いて暫らく呆然としていた宮城だが、口を開くと『犯人を見たのか?』と聞いてきた。

「・・・姿は見ていませんが・・・上條が『角』という名前を仲間が呼んでいたのを聞いています・・」

「・・・角・・・って・・あの作家の息子か・・・?」

「教授、それは俺が名前を聞いただけで断定は出来ません・・・この件に関しては俺が確認してみます・・・だから教授は・・」

角という名前は大学内でも一人しかいないし、作家の息子だということもあり宮城も上條も顔だけは知っている。

しかし、その角を犯人として決め付けるのはまだ早い。

怒りに駆られた宮城が角と接触すれば何をしでかすか分からないので弘樹は宮城を何とか押さえ込んだ。

「・・・すまない・・・迷惑をかけた・・忍はまだ眠っているのか?」

「はい、鎮静剤を飲ませてますので朝まで目を覚まさない筈です。」

怒りに我を忘れかけた宮城だったが、目の前に居る忍の存在に落ち着きを取り戻す。

「・・着替えを持って来てから忍を引き取りに来る・・・30分ほど、忍を頼んでいいか?」

「はい。大丈夫ですよ。」

本当なら今夜は弘樹の家で眠らせておくほうが忍の体の為なのだが、宮城が連れて帰ると言うので弘樹は快く承諾した。
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