『奥の細道』
□奥の細道E
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他愛無い日常がそこにあって。
何気ない会話が交わされて。
くだらない事で笑い合って。
それが、ずっと続いていくものだと信じていられるのは・・・
今が幸せだから。
「宮城ー、もうすぐ晩御飯出来るからテーブルの上にある本を片付けて。」
キッチンから若奥様みたいな忍の声と、フライパンでキャベツを炒めるジュウジュウという音が聞こえてきた。
もうすぐ晩御飯だとの用意に宮城もくつろいでいたリビングのソファーから立ち上がり、キッチンカウンターに置きっぱなしの本を片付けに行く。
つい読み漁ってしまって散らかした本を片付けながら、宮城はチラッとキッチンに居る忍を窺う。
・・・いつもと変わらない表情と態度。
学会に出かける前の忍の行動がどこかぎこちなくて、違和感を覚えた宮城は学会もそこそこにして急いで帰途についたのだが、宮城の思い過ごしだったのか、忍はいつも通りだった。
学会から帰ってきてすぐその日から『来てやった』と恩着せがましく部屋に乱入し、『腹減っただろう?メシ作ってやる』と言い出すいつものパターンを通過して、忍は今キッチンでキャベツ炒めを絶賛調理中だ。
・・・気のせいだったのだろうか、やっぱり・・
あの日の朝の出来事は・・
玄関先で見送る忍が宮城の手を、ふいに握ると急にあどけなく幼い顔を歪ませた忍・・・
『何かあったのか?』と聞く前に『大丈夫』と見透かされたように先回りされ、宮城は何も言えなくて・・・・
「・・っ熱!!」
現実に戻されるように、突然忍の短い悲鳴と一緒にフライパンがコンロの上に落とされた。
「どうした!?」
慌ててキッチンカウンターを迂回して忍が居るキッチンに入れば、そこには指を咥えている忍が突っ立て居た。
「こら!何してんだ?火傷したんだろうが!?指を咥えてても火傷は治らないぞ、すぐに冷やせ!」
忍の状況から、何があったのか聞かなくても火傷をした事は一目瞭然だ。
そんな火傷をした忍は悠長にも指を舐めているので宮城は叱りながらも水道の蛇口を捻り、水で火傷痕を冷やす。
「宮城・・平気だよ?ちょっとプライパンに触って熱かっただけ・・・」
「駄目だ。指が赤くなってるじゃないか・・・火傷なんてのはしっかり冷やしておかないと痕が残るんだ。」
そんなモンなの?と火傷を軽く見ていた忍は宮城に掴まれた手首を水道に当てながら大人しくしていた。
きっと本当は火傷がジンジン疼いていたのだろう。
それを宮城に冷やしてもらって、疼きが治まると忍はハァ…と気に抜けた声を出している。
宮城自身も手を濡らしながら、忍と共に水に浸っていたが、宮城はふと見えた忍の白いうなじに思わず魅入る。
大きく襟ぐりの開いているラフなTシャツは忍の素肌を露出させていた。
『・・・・痕が残ったら・・・』
自分が言った言葉に宮城はあることを思い起こす。
その『あること』とは・・・
もしかして、忍は誰かに脅されているのではないかという憶測。
もし、その予測が当たっていて、暴力を受けていたなら体のどこかに傷痕が残っているかも知れない。
その暴力が『性的暴力』なら、間違いなく痕は付いている。
聞いたところで絶対に答えてはくれない忍だから、もし、暴力を受けていてその痕を見つけて事実を突きつければ口を開くのではないだろうか?
確かな根拠などない状態で、こういったデリケートな問題は下手に詮索を入れるより体を探った方が手っ取り早い。
それに、自分は忍の体を隅から隅まで見れる立場にあるのだし・・・
「・・・へ?や、何!?何、いきなり・・・みや・・・んっ!」
火傷の治療だとして背後にくっ付いていた宮城がいきなりうなじに唇を落としてきて、流石に忍は驚いた様子だった。
「忍に触れたくなった・・・いいだろ?」
「でも、も・・ご飯出来て・・・ひゃ、ああぁっ・・」
口答えは許さないつもりなのか、Tシャツの裾から潜り込んできた宮城の手が忍の胸を撫で回し、まだ柔らかい肉の粒を指で摘んだ。
宮城しか触れる事の無いその胸の尖りは指の腹で転がしてみても一向に固くならず、快楽についていけない初心さを物語っている。
「ぁん・・・み・・・ゃぎっ・・もっと、優しく・・・して・・」
コリコリと乳首を捻り出すような指使いをされて、忍は乳首が勃ち上がるよりも早く、息を切らせ頬を染めて震えながらシンクを握り締めていた。
「相変わらず、乳首は小さくて陥没したままだな・・・気持ちいいのに勃たないんだから困ったもんだ。舐めて吸い出してやるからコッチ向いてみろ。」
「ん・・・そんな・・・無理に・・・俺の乳首、おっきく・・・しなくても・・いいから・・宮城・・」
流れる水道の水もそのままに、くるんと反転させられた忍の体は宮城と向き合う形で立たされた。
「服が邪魔だ・・・・脱げ、忍。」
「ひゃ・・・」
反転して一瞬宮城の顔が見えたと思えば、すぐに上着を脱がされ視界は布で覆われた。
そして顔から服が取り払われて視界が開けると、宮城の顔がすぐそこにまで迫っていて、あっ、と思う間も無く続けざまに激しい口付けをされた。
「・・・ん、ぅん・・・っ」
何度も舌を差し込み、絡め取った忍の舌を味わうように甘噛みされて、砕けた腰がキッチン・シンクの上に寄りかかる。
水道の水音に合わせて、ピチャピチャとお互いの唇から濡れた音が奏でられ、忍は恥ずかしさに居たたまれなくなってしまう。
それでも、そんな羞恥を感じるのは最初だけで暫らくすれば巧みな宮城の舌使いに翻弄され何も考えられなくなり・・・
反対に素肌を這い回る宮城の掌には敏感になる。
「キスで感じたか?やっと勃ち上がったぞ、ココ。」
「んん・・・っ・・・ああぁん・・」
キスを施しながら再開された胸への愛撫に忍の口から甘い声が漏れた。
「ぁ・・んあぁ・・宮城ッ!」
ゆっくりと忍の胸元に降下していく宮城の髪をやんわりと掴みながら、忍は敏感な乳首への愛撫を許す。
感じやすい忍の肉粒を宮城は舌と唇で嬲り、小さな突起物を扱き上げられると、そこから疼くような快感が全身に広がる・・・
でも、明るいキッチンで行われているのは単純に愛の営みではないと忍は知っていた。
----宮城は自分の体を検分している・・・
甘く優しい愛撫の合間に一瞬だけ、宮城は忍の体を舐めるように見る。
-----自分の体にレイプされた痕がないか調べてる・・・
「宮城・・・そこ、イイ・・・気持ち・・・ぁんっ・・・」
指の間から零れる宮城の髪を掴み、自分の胸に固定する。
-----いくらでも調べればいい、どんなに見られてもレイプの痕など見つかりはしないから・・・
『忍には彼氏がいるからさー、浮気がバレると面倒なんだよ。だからキスマークとか爪痕とか絶対に付けんなよ?』
皮肉な事に自分を犯す角の悪知恵が、今の忍にとっては救いとなった。
知られる訳にはいかない・・・
地位も名誉もある大学教授が未成年の少年と恋人同士の関係を持っているなんて。
どんな事をしてでも守らなきゃ・・・
弱味を握ってる角が自分の体に飽きる日まで、自分達の関係に興味がなくなるまで耐え抜くと決めた。
こんな悪夢が何時までも続く訳がない・・
いつか、きっと、全てが終わり許される日が来ると信じて。
「いやぁぁ・・みや、ぎぃ・・・っ!!」
ガリッと強く噛まれた乳首が忍の塞き止めていた快楽を解き放ってしまい、忍は乳首の愛撫だけで達してしまった。
「ぅう・・やだ・・下着が・・濡れた・・・宮城の、馬鹿・・・」
宮城の腕の中からズルズルと崩れ落ちる忍の白く滑らかな素肌には、宮城の付けた痕以外は何も傷ついていなかった。