テロリスト

□キング・オブ・宮城
1ページ/2ページ


同棲生活を始めて幾日か過ぎた。

お揃いのマグカップにお揃いのスリッパ。

洗面所に二つ並んだ歯ブラシが二人暮らしを主張していた。

そんなこそばゆいような日々を送っていたある日。

宮城から『今夜は遅くなる』との連絡が入り、忍は仕方なく一人で食事を済ませ、風呂を終え、宮城の帰りを待つ。

「・・・宮城のヤツ・・・午前様か?いい根性してるじゃねぇか・・・」

どこぞの新婚夫婦の若奥様のように、忍はソファーの上に腰掛け、足と腕を組み目をつり上がらせる。

その刹那、タイミングが良いのか悪いのか、宮城が帰宅した。


「宮城っ!遅いよ!幾ら休みの前の日だからって午前様は・・わっ?わわわっ!!?」

玄関を開けるや否や、雪崩れ込むように宮城が忍に抱きつき熱い抱擁を施す。

「ん〜〜〜、ただいま〜、忍ちん・・・今夜は一段と可愛いねぇ・・・お風呂入ったのかぁ〜良い匂いがするぞぉ〜」

「やめっ、宮城・・・テメー、酒臭いっ!酔ってるだろーっ!重いってば!」

一回り以上大きな宮城に圧し掛かられて、華奢な忍は今にも潰れてしまいそうだ。

しかも頬擦りされているものだから、忍の足は覚束なくてフラフラしてる。

「忍ちん・・俺さぁ、今日面白い遊び教えてもらったんだよ・・・それをさぁ、ぜひぜひ忍ちんとしたくて慌てて帰って来たんだ・・・」

「あ、遊び?今から?酔ってるのにするのか?」

酔っ払った人を介抱する事も、ましてや酔った宮城を見るのも初めての忍はどうしていいのかも分からず、とにかく言いなりになるしか無い。

「おうっ!それはなぁ・・『王様ゲーム』って言う、最新でハイクオリティーなゲームだっ!」

「・・・王様ゲームって。」


・・・・それは最新どころか数十年前から定番の飲み会ゲームであり、付け加えるならハイクオリティーと言うよりはロークオリティーだ。

でも、自信満々で得意げな宮城が『割り箸持って来いっ!』とあまりにも騒ぐので、リビングのソファーに座らせた宮城に渡す。

ここで、手渡すのが割り箸一組だけというのに一抹の不安が過ぎる。

本来なら大人数で楽しむべき『王様ゲーム』を二人だけでするのだから、悲惨な結果は目に見えている。

それでも嬉々として割り箸に『王様』と『1番』とを記入している宮城に意見するのも悪くて、忍は諦めてゲームに付き合う事を決意した。


「それでなぁ〜忍ぅ・・・王様の命令には絶対従わないといけないんだ・・・いいな、絶対だぞぉ〜」

「・・・・うん。」

・・・ゲームの内容など知っているが、嬉しそうに説明してくるのであえて聞いてやる忍。


「よおし。分かったなら、この割り箸を引けっ!」

ふんっ、と鼻息を鳴らして突き出された宮城の手から、忍は割られた箸の一本を引き抜いた。

「さあて・・と。王様だあれだ?」

宮城の合言葉に忍は自分の掌にある割り箸を見た。

そこには『1番』の文字が。

・・・となれば、王様など誰か分かりきっている。

当たり前だ。

二人しか居ないのだから。


「王様は、俺ーっ!!」


ソファーの上でふんぞり返り、王様の割り箸を高く掲げて叫ぶ宮城に、忍は『やっちゃったよ、このオッサン・・・』と呟いた。


「ははははっ!それじゃあ、王様が命令すんぞぉ〜」

高らかな笑い声は忍に向けられている。

当たり前だ。

忍にしか命令する人が居ないのだから。

「一番の人がぁ〜、王様にキスするコト!」

・・・やっぱりな命令に、忍の落胆は計り知れない。

恐らく飲んでいた店のどこかで王様ゲームをしていて、宮城はゲームの仕方はともかく、命令までも真似しているようだった。

その証拠に外野の声である『きゃー』という声も自分で発しているから救いようが無い。


「はーい、1番だぁ〜れだ?」

誰だ?といいつつ、忍を抱き寄せる宮城。

当たり前だ。

忍しか1番を引ける人間は居ないのだから。


「・・・俺だけど・・・」

「おおっ!忍ちんかぁ〜」

見せた割り箸の先に、宮城はわざとらしく驚き、膝の上に忍を乗せた。

「ほれ、一番は王様にキッスだ。」

正面を向き合い、ぎゅーっと腰を抱き寄せられて、思わず忍は両手で宮城の肩を遠ざけるようにつっかえ棒をした。

キスをするのが嫌じゃない。

酒臭いからでもなく、恥ずかしいわけでもなく、怒っているからでもない。


ただ、こんなやり方で、しかも酔ってないと、宮城は自分に迫って来ないのかと思うと情けないような・・・悔しいような・・・


「忍、キスしろって、命令してんだぞ?」

「あ?え?みや・・・っ」


拒絶してるというよりは、いじけて悶々している忍の態度に焦れた宮城は、膝に乗せていた忍を持ち上げ、ソファーに押し倒した。


「・・・王様の命令は絶対なんだ・・」

「・・・ぁ、んっ、んふっ!」

上半身にかかる宮城の体重の重みを受け止め、忍は少し乾いた宮城の唇も受け止める。


・・・お酒と煙草の匂い。

自分にはまだ未知数な大人の世界。

興味はあるけれど踏み入れるには何だか、まだ怖い世界。


でも、宮城になら引き摺り込まれてもいいって思えるんだ。


逞しい腕に両手を押さえつけられ、厚い胸板に押し付けられた細い体は身動きもままならなくて、忍はただ好き放題に唇を貪られた。


・・・『キスしろ』なんて命令しておいて、自分からキスしてんじゃん・・・




酔っ払いのオッサンでも、やっぱり好きなんだから仕様が無い。



沈むソファーに背中を預け、忍はゆっくり瞳を閉じる・・・・・



―――自分だけに暴君ぶりを発揮する、王様に乾杯。






2011/9/18
*****

お終い♪
王様ゲームをさせてみたかったの・・・

この後はテロスキー様のために「バトン」を用意しております。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ