テロリスト

□つま先立ちでKISS@
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高く昇り過ぎた太陽が、寝すぎた自分を罵るように窓から日差しを零れさせる。

昼近い時間となり冷えていた外の空気も春の日差しで幾分か暖められているようで、宮城は寝室の窓を開け少し肌寒い風を受けながらベットで眠る忍を見下ろした。


学生と教授という肩書きから二人とも金曜の夜は『明日』というものに縛られない。
よって、休日前の夜と言えば人に言えないような事ばかりに及んでしまう。

忍が大学に無事入学し、隣に引っ越してきてからというもの、特に歯止めが効かなくなった。

・・・もとい。正確には初めて身体を繋げた日から自分はこの小さな『テロリスト』に降参してしまっている・・・


昨夜の情事によるこもった室内に新鮮な風を送り込み空気の入れ替えを行っている最中も忍は目を覚ます様子はなくスゥスゥと規則正しい寝息を立てている。

そろそろ昼だし、起してやってもいいのだろうが、なかなか目を覚まさない原因は自分にあるので積極的には起せない。

二人だけしかいない部屋で二人だけの世界に酔わされて、宮城はその安心感から忍を半ば強引といっていいほど抱いて、忍に無理をさせてしまうのだ。

「寝てると、女の子みたいだな・・・」
クスッと一つ笑って、宮城はベットに腰掛けた。

起きているときは生意気そうな切れ目も寝ていてはその威力はなく、幼い顔立ちを引き立たせた。
相変わらず細い身体も、触れたくなるようなきめ細かい肌も、無防備にベットの上に晒してあってそれがまた愛しくてならない。

髪に触れてやると長い睫毛がふるふるっ、と震えて、それからゆっくりと目蓋を開く。

「・・・ん・・・まぶし・・・」
「もう昼だからな。」
開いた瞳を再びきつく瞑り、忍はシーツに顔を埋める。

半分は本当に眩しかったから・・・
もう半分は目の前に宮城が居て恥ずかしかったから。

「どうせ、今日はやる事ないし寝ててもいいけど・・腹減っただろ?とりあえず起きて昼飯にしよう、忍。」
シーツにうつ伏せた忍の髪を今度はクシャクシャと掻き混ぜる勢いで撫でると忍は『ガキ扱いすんなッ!』と怒り、そのまま起床となった。

それは、もう当たり前のようになったいつもの週末。



「あのさ、忍・・・たまには何処かに出掛けようか?」
宮城は豪快に盛られたキャベツ炒めを箸で突付きながら、何となくそんな言葉を口にした。

いい若い者が一日中部屋の中で過ごしていて、しかもそれが毎週ともなると不健全極まりない気がしたのだ。
夜に散々不健全な行為をしておきながら・・と自嘲しつつ、宮城は罪滅ぼしのような感覚で外出に誘った。

「忍?聞こえてるか?おーい?」
返事が帰って来ないので、さほど離れて無いキッチンの向こうに居る忍に再度声をかけた。

「・・・・・駅・・・で・・・」
「あん?なんだ?」
キッチンカウンター越しに忍が背中を向けたまま小さな声で何かを呟く。

「今から30分後!!駅で待ち合わせだ!!」
手にしていた菜箸をバンッ!とまな板の上に叩きつけ、忍はキッチンから足早に出て行く。

「ええ!?待ち合わせって・・・お前、隣同士で!?てか、お前、飯は食わないのか!?」
引き止めようとする宮城の言葉に耳も貸さず、忍は一直線に玄関を目指し、そのまま帰ってしまった。

「これは・・・出掛ける事に賛成したとみていいのか?」
一人部屋に取り残された宮城は呆然と立ったまま忍を見送り、玄関のドアが閉まる衝撃で山積みのキャベツ炒めが崩れていく音を聞いた。



30分後。

宮城は自分の家に鍵をかけてから、それとなく忍の家のインターホンを鳴らしてみた。
駅で待ち合わせなんて言ってても、まだ家に居るのなら一緒に出ようと考えたからだ。
しかし、すでに忍は駅に行ってしまってるようで留守だった。

思えば家が隣ですぐに逢える環境に慣れてしまい気づかなかったが、こうして改めて何処かで待ち合わせするというのも新鮮だ。

駅に向かうまでの間に忍を何処に連れて行ってやろうかとあれこれ思う。
相手の事をじっくり考えてやれる時間があるというのは案外幸せに浸れたりするものだ。

さて、どうしたものかと、駅に着いた宮城はロータリーの目立つ場所で忍を探すがそれらしき人物が見つからず途方に暮れた。

いつも何処からとも無くやって来ては宮城を見つけて抱きついてくる忍の事だから、こうして立っていれば向こうから自分を見つけるだろうと宮城は考えた。


「見ろよ、あの子・・・可愛いじゃん。」
「お、本当!一人なのかな?誰かを待ってんのかな?」

丁度、忍と同じ位の歳の男の子が、可愛い女の子を見つけたらしく色めきたっている。
すぐ側でそんな会話を耳にすれば、男の悲しい性で勝手に自分も可愛い女の子とやらに目がいってしまった。

そんな宮城の目線の先には、腰の高さほどに積み上げられたブロックの花壇に腰を下ろす細身の女の子だった。

裾の長い白のワンピースに淡いピンクのニットカーデガンはどこぞの有名ブランドの服だろう。
別れた妻が同じような服を着て『可愛いでしょ?高いのよこの服』と言って見せびらかしていた。

女の子女の子って感じの可愛い系の服は着る人を選ぶだろうけど、その子は見事に着こなしていて周囲からも視線を浴びていた。

今時の女子高校生にしては珍しく短めの髪も染めてないし、化粧もしていない。
装飾品も一切付けてないけど遠目から見ても十分に綺麗で清楚な感じを与える女の子だった。

隣の男どもが騒ぐもの頷ける。
声をかけて来いだとか、名前だけでも聞いて来いとか言い合う男達の側で自分もあと10年若ければ同じような事をしていたかもな・・・と苦笑する

しかし、今は悲しいかな男との待ち合わせ中の身。
宮城は目の保養をしたと思い、再び忍を探した。



「・・・何してんの?」

暫らくすれば、やっぱりと思うタイミングで背後から忍の声がする。

「ああ、忍?探したぞ、何処に・・・・」
振り返った宮城は言葉を失い、固まった。

自分の目の前には忍ではなく、先ほどまで自分の目を楽しませてくれた可憐な少女が立っていたからだ。

先ほどまでざわついていた男の子の集団も、こんな若くて可愛い子がおっさんと待ち合わせかよ!?といった顔をしてこっちを見ている。

「えと・・・・どちら様かな?」
少なくともこの歳でこんな女の子に逆ナンパはされないだろうと、淡い期待をしつつもやんわりと人間違いだと言い聞かす。

「さっきから人の事ガン見しといて無視する事ねぇだろ!?他人のフリすんじゃねぇよ、馬鹿宮城ッ!」
可憐で清楚な少女の口から信じられないような言葉が吐き出された。

この生意気な言い方・・・このきつい睨み方・・・この横柄な態度・・・

「・・・し・・・忍・・ちん??」

「おうよ。やっと分かったのかよ?」

腰に手を当てて、フンッと鼻息を鳴らすのは間違いなく忍だった。







*****
つづく。

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