テロリスト
□Destiny〜運命〜
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降り出した窓の外には雪。
透明な窓ガラスに、白い雪が張り付き、雪の結晶が一面に花を咲かすかのような光景。
ふわり、とガラスに花を咲かせては枯れるように溶けて雫となって流れていく。
雪は花となり、花は雫となり・・・・。
「寒いと思ったら・・・よく降るなぁ、雪・・・」
一人では広すぎるソファに座り、リビングの大きな窓から外の風景を見るともなしに眺めていた宮城は、ぽつりと一人ごちる。
元々二人で始まる生活の為に購入したマンションは、早すぎる破局のせいで今は一人で部屋の広さを持て余す結果となった。
離婚して寂しいとか、未練とかは驚くほど無かった。
かといって清々した、などという無責任な感情も無い。
ただ・・・こんな雪の降る日は、真っ白な雪にならい自分の感情も真っ白にしたくなる。
つまり何も考えたくないという事であり、簡単に言えば現実逃避だ。
「そういや・・・あいつ、名前なんだったけなぁ・・・」
おかしなことに頭を真っ白にすれば、浮かんで来るのは別れた妻・・・、の弟。
元々だという薄茶色の髪はサラサラで、大きな瞳を縁取っている睫毛は瞬きするたびに音が鳴るんじゃないかと思うくらい長かった。
潤んだ瞳は伏せていれば少女のような可憐さがあるが、いったん目を上げればつり上がった目尻のせいで目つきが悪くなった。
結婚式の時、自分を見上げる時のあの瞳は特にきつく感じたが気のせいだろう。
祝いの席で有り得ない。
そこまで顔も仕草も鮮明に覚えているのにどういった訳か、名前が思い出せないのだ。
名前と顔が一致しないのは今に始まった事ではないと宮城は自嘲して、再び窓の外に目を向ける。
ふわり、ふわり・・・ひらり。
ふわり。ひらり、ひらり・・・ふわり。
「・・・・ん?なんだ、あれ?」
窓の外、白い雪に混じって舞い落ちるのは・・・
白い羽?
丸みを帯びた雪とは明らかに造型の違う長細い羽が確かに窓の外に舞っている。
「こんな雪の日に・・・鳥か!?」
白い鳥が羽を怪我して落ちているのだろうかと思って、宮城はベランダに出て地面を見下ろした。
そして、地面を見下ろした宮城の視界に飛び込んできたのは、白い鳥ではなく・・・・
天使だった。
「・・・・疲れてるな・・・俺は。」
ベランダの手すりに上体をしなだらせ宮城は眉間を摘んで目蓋を閉じた。
軽く疲れ目をマッサージして、次に目蓋を開いた時は、背中に白い羽を生やした少年が見えない事を祈り・・・。
だが、宮城の切なる願いは叶えられる事はなく・・・
天使は確かにその場所に居た。
見間違いではない。
その後、宮城は部屋を飛び出し、階段を駆け下り、マンションのエントランスを抜けて壁際の狭い通路を走って自分の部屋のベランダの下へとやって来た。
ほとんど、衝動的に・・・
気が付けば宮城はマンションの裏庭に降臨した天使の前に佇んでいた。
絹糸のような薄茶色の髪
長い睫毛に縁取られた大きな潤んだ瞳。
けれど角度によっては可憐にも生意気そうにも見える。
それがまた、少年らしくもあったが、少年と呼ぶには躊躇いがある。
少年・・・というよりは人間として見ていいのかが疑問だからだ。
舞い降る雪よりも白い背中の羽が、少年を人として呼ぶべきかどうかを迷わせたから・・
宮城はその天使と思しき少年を前に、ついさっきまで名前を思い出せなかった者の名を思い出した。
「・・・忍?」
そんなはずなど有り得ないのに宮城の口からは唐突にその名前が出てしまい、宮城は慌てて口元を押さえた。
けれど、『忍』、と呼ばれた天使はゆっくりと頷く仕草を見せてくれる。
---『そうだよ。やっと思い出した?』
天使はただ黙ってその場に座り込んでいたけれど、宮城の脳裏にはそんな言葉が直接聞こえて来た。