テロリスト
□テロリストな小話集
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『歳が離れていても…』
その日の朝、忍は肩を震わせ、声を殺して泣いていた―――
リビングに射し込む清々しい朝の訪れにも気付かないまま、忍は、その小さくて華奢な背中を丸め、涙を零しているのだ。
ぽたり、ぽたり、と。
磨き上げられたフローリングの床に、幾つもの涙で作られた水玉模様が描かれていく。
それを、宮城はどうする事も出来ずにいた。
見てみぬフリをしている訳ではない。
見たくないとか、煩わしいとか、そういった鬱陶しさも無い。
忍が泣いている理由には、自分自身も同じ思いをしたからだ。
そうだ、確かに、悲しい。
切なげで、健気で、一生懸命で――それなのに、報われない。
そして『それ』はどういう訳か、冬の日の朝、それもクリスマス近くになると現れる。
―――いや、正しくは『放送』される。
「忍!気持ちは分かるが、もう泣き止め・・・学校、遅刻しちまうだろ?」
「はあ!?この状況で学校なんて行けるかよっっ!!見てみろよ!このアニメ!!」
振り向きざまに涙が溢れる潤んだ瞳で宮城を睨みつけ、『見てみろ!』と言わんばかりにテレビを指差す忍。
そう、分かってる。
お前の言いたい事など百も承知だ。
この『アニメ』の最終回を目の前にして、誰がその場を離れられるというだろう?
事実、自分だって、この『アニメ』から目が離せなくて学校に遅刻したのだから・・・
だが、今の自分と忍とでは大きな違いがある。
今、宮城が目にしているアニメは昔の懐かしいアニメであり『再々々放送』なので、この話は何度も見て多少なりとも免疫がある。
しかし、忍にとっては初めて見るアニメであり『リアルタイム』にも等しいのだ。
初めて、このアニメの最終回を見て涙するのは当たり前。
「忍・・・あの・・・それ以上、見ると・・・」
『耐え切れないほど、悲しくなるぞ?』と、注意しようとしたのだが・・・
「うそ・・・だ・・・『ネロ』が・・・・死んだ・・・嘘だろ!?『パトラッシュ』もかよおおぉっ!!?うわああああぁっ!!天使がっ・・・天使が2人を連れて行く!やだあああぁ―――!!」
・・・・時、すでに遅し。
宮城が懸念していた通り、忍は『フランダースのイヌ』の再再再放送を見て号泣してしまったのだった。
*****
おしまい。
今の若い人達って、『フランダースの犬』、見た事あります・・・・よね?
2012/12/23