雪名×木佐

□マリモじゃないもんっ!
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社会人の木佐と学生である雪名の休みが重なるのは極々稀で貴重だ。

それに天気も良いとなればどこかへデートに行くのもいいだろう。


・・・しかし、木佐と雪名の場合はそうはいかない。


「雪名ーっ、お前のバイト先のエプロン洗濯しておいたぞ。名札は何処だ?付けておかないと忘れちまう。」

ベランダから出てきた木佐は大量の洗濯物を両手一杯に抱えながら、キッチンで洗い物をしている雪名に向って叫ぶ。


久し振りの休日も溜まりに溜まった洗濯物や食器の洗い物、それに男二人が半同棲状態で暮らしているので部屋の掃除にも追われる羽目になるのだ。

せめて『お家でデート』くらいの雰囲気でイチャイチャしたいものだが、今は目の前に課せられた家事全般をこなさなければならないのが悲しいところだった。

「木佐さん、俺の名札ここです・・・すみません、エプロンまで洗って貰っちゃって。」

「いいよ。どうせ今日も俺ん家に泊まって明日はここからバイトに行くんだろ?休みの日に洗っとかないと・・・接客業なんだから身だしなみは大事だ。」

特にお前は女の子に取り囲まれるんだから・・・とまでは言わずに木佐は『ブックス・まりも』の名札を黒いエプロンに取り付けていく。

その甲斐甲斐しい木佐の優しさに触れて、雪名が小言を漏らす。

「あーぁ・・・木佐さんみたいに気の利く子がバイトで入ってきてくれないですかねぇ・・・最近採用されたバイトの子が要領悪くて使えないんですよ。注意してもダメだし、困ってるんです。」

ガチャガチャと泡だった食器の中に手を突っ込んで、雪名はほとほと困り果てた様子で泣き言を連ねる。

「ははっ。新人を育てるのも仕事の内だよ。せいぜい頑張って下さい、雪名先輩。」

「うわぁ、木佐さんに先輩なんて言われるとチョーヤバイっすよ!!連日のバイト疲れが吹っ飛びますって」

茶化して木佐が口にした『雪名先輩』に、雪名は顔をニヤつかせて照れて見せる。

「ばぁか。こんなのはリップサービスだ。本当に疲れを取りたいなら栄養剤でも飲んでろ。」

ほらよ、と、つっけんどんにキッチンカウンターに置かれたのは個包装された銀の包み紙。

「見た事無い包み紙っすね・・・品名も書かれてないし・・・」

「ああ、あまり市場には出回ってない栄養剤らしい・・・羽鳥っていう同僚のヤツに貰ったんだ。」

結構値が張って効果抜群の優れものらしいぞ、と付け加える木佐に、雪名は申し訳無さそうに口を挟んだ。

「折角なんですけどすみません・・・俺、粉薬はまったく飲めないんですよ。木佐さんが飲んじゃって下さい。」

「はぁ!?雪名って粉薬ダメなんだ?お子様だな・・・じゃ、俺が飲むとするか・・・っと、電話だ。誰だ?羽鳥か?」

雪名に差し出した包み紙を再び自分の手の中に収めると同時に木佐の電話が鳴った。

木佐は電話片手に包み紙を破り粉薬を口に流し込むと『今、羽鳥から貰った栄養剤飲んだぜ、本当に疲労回復に効くんだろうな?』と笑いながらそのまま電話に出る。

そんな木佐を目で追いかけ、休みの日にまで仕事の電話なのかな・・と、聞き耳を立てつつ雪名は洗い物に精を出していたが、突然様子が変になったのを感じて手を止めた。


電話を耳に当てたまま一言もしゃべらずその場に立ち尽くす木佐。

受話器の向こうでは電話の相手が何やら必死に問いかけてる声が引っ切り無しに聞こえてきているというのに・・・・

「・・・木佐さん?どうしたんですか?何黙って・・・」

異様な光景に雪名は心配して近寄ると、黙り込む木佐の顔を覗き込んだ。

どこか酒にでも酔ったようなトロンとした表情の木佐に顔を近づけてみると、受話器を通して電話相手の声が鮮明に聞こえてしまった。


『木佐ッ!!木佐!その栄養剤は飲むなっ!それは媚薬なんだ!それも超強力なっ!』

受話器越しから物凄い剣幕で怒鳴り散らす電話主は、木佐に向かい『飲むな!』と、しきりに騒ぎ立てている。

それなのに、木佐は我関せずといった風情であらぬほうに視線をボーッと彷徨わせているだけだ。

あまりにも木佐の無反応な対応に、切羽詰る電話主が気の毒になり雪名が代わりに電話に出た。

「・・・・あの、すみません。木佐・・・、の様子がおかしいので電話代わりました。雪名と申します」

悪いと思いながら出た電話に雪名は自分の名を名乗るが、相手の方はそれどころじゃないらしく雪名に向って語りかけてくる。

『銀の包み紙があっただろう!?それを木佐が飲んだってのは本当か!?』

「あ、はい・・つい今しがた飲みましたが・・・」

木佐が栄養剤と言ってた銀の包み紙の中身を、もう飲んだと言えば受話器の向こうで『あちゃー遅かったか・・』という落胆の声が聞こえてきた。

『飲んでしまったなら仕方が無い・・・雪名君だったね。君に木佐の面倒を見てもらう事になるが・・・今から俺の言う事を良く聞いてくれ。』

「・・・・・はぁ?」

何かが吹っ切れたような物言いの電話相手は、雪名に木佐が飲んだ薬は栄養剤ではなく『媚薬』なのだと説明し、その『媚薬』によって人格が変わる木佐の対処法も教えた。


―――『とにかく、木佐の言う通りにしてやれ。』と念を押して電話は無情にも切れたのだった。


それだけを伝授された雪名は切れた携帯電話を手にして呆然としている。

何がどうなっているのか混乱する頭で必死に理解しようとしている雪名の背後に、ゆっくり近づく妖しい影・・・・



「・・・雪名、先輩・・・・こんちにはぁ・・・・こんどぉ、ブックス・まりもにバイトで採用されましたぁ・・・『しょうちゃん』ですぅ・・・・」

「・・・・へ!?木佐、さん?」

舌足らずな甘えた物言いは、木佐が雪名に抱かれ、雪名の体の下で身悶えている時にだけ発せられる声だ。

それが、今、この日常生活の中で唐突にそんな声が出るのは、あながち『媚薬』の効果を信じずにはいられなくなる。


「木佐じゃ・・・ヤダ。雪名先輩。ちゃーんとしょうちゃんって呼んでくんないとぉ・・・しょうちゃん、お仕事しないよぉ?」

「しょ・・・しょう、ちゃん??」

クスクスと笑いながら、ふらつく体で木佐はおもむろに服を脱ぎ出していく。

羽鳥から『とにかく木佐の言うとおりに』の助言が脳裏を掠めたので、雪名はとりあえず黙って事の成り行きを見守る。

そうしている間にも木佐はどんどん服を脱ぎ、全裸になると、何を思ったのか雪名のエプロンを身に着けた。


―――いわゆる『裸エプロン』の完成だ。


「雪名せんぱぁい・・・このエプロン、おっきぃですぅ・・・肩ヒモが長いから、見て・・・おっぱい、見えちゃうの」

上半身を傾けて、昔流行った『だっちゅーの』のポーズをする木佐。

「ブッ!!!?」

裸エプロンのお披露目だとばかりに正面を向いた木佐は大きすぎるエプロンから見え隠れする乳首を雪名に見せ付ける。

そんな刺激的な悩殺ポーズを目撃した雪名は、その衝撃の大きさに立ちくらみを起こした。


・・・だって、だって、可愛すぎるじゃないッスか!!?

雪名は一人で自分にツッコミ、男の浪漫である裸エプロンに対して感動の握り拳を作る。

小さく華奢な肢体にまとわりつく大きめの黒いエプロンは木佐の白い肌を際立たせ眩しいくらいに輝く。

チラチラと見える乳首だって、完全に見えるよりも返ってそっちの方がいやらしさを増して扇情的に映る。

『先輩、似合う?』なんて微笑んでクルリと体を回転させると、後を向いた時に現れるお尻が破壊的に魅力的だし、細い腰に結ばれたエプロンの紐が何ともエッチっぽい。



そして、なぜ木佐がブックス・まりものエプロンを身に付け、自分を『先輩』と呼ぶのか訊いてみると・・・

「・・・んふっ、やだなぁ、雪名先輩が言うからでしょぉ?『しょうちゃんみたいなバイトの子が欲しい』ってぇ・・・しょうちゃんねぇ、雪名先輩の言うコトならぁ・・なぁんでもきいて、あ・げ・る」

モジモジと恥ずかしそうに体をくねらせても、それは完全に雪名を誘惑している木佐の仕草だった。



この時、雪名は思った。

・・・・神様はこの世の中に、なんとエロい生命体を誕生させたのだろうか・・・、と。

そして、雪名は感謝した。

・・・・神様、ありがとう。俺の目の前にエロスの天使を降臨させて下さって・・、と。







****
つづく。


…黙って木佐さんについて行こう!!
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