マギ
□名前を呼んで。
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くちゅり・・・、と音が響く。
それはいつの間にかシンドバッドの指に塗り浸けられた香油の類で、自ら濡れることの出来ないジャーファルの為に用意された物だった。
ジャーファルに気付かれない様、懐にでも隠し持っていたのだろう。
用意周到な確信犯だ・・・と、ジャファールは虚ろな意識の片隅でぼんやりと考えた。
しかし、その思考もシンドバッドの指の動きによって考えられなくなる。
香油の滑りを借りてすんなりと後孔に挿入してきた指が肉壁を押し分け深い部分にまで沈み、ゆっくりと旋回し肉筒を拡げるように動く。
そこから何度も抜き差しが繰り返され、長く節くれだった指が蠢く度、ジャーファルは切なげに声を上げた。
「ぁっ、あ・・・ぃやぁあ・・・っ」
甘い声は、きっと誰が聞いたって『嫌』という意味を成していないだろう。
シーツの上に髪を散らばらせてイヤイヤとばかりにかぶりを振る。
シンドバッドの指を後孔に咥えたまま、無意識に細い腰が揺れていた。
もう何度もこうして抱かれているうちに身体が勝手にそういう反応を示すようになってしまっている。
「・・・可愛い。」
なんて囁くシンドバッドの呟きは、残念ながら今のジャーファルには届かない。
「ん、あぁ・・・シン・・・も、もぅっ」
蕩けるような愛撫は時間を厭わないほどに長く丁寧に続けられるが、ジャーファルの身体は苦しさにも似た快感についていけなくてビクビクと痙攣を起こしてしまう。
そんなジャーファルの状態を見極めてから、シンドバッドは自分の指を抜き、代わりに己の切っ先を押し付けた。
「は・・・んっ」
さんざん弄られ熟れた蕾に熱い高ぶりを感じ、ジャーファルは身体から力を抜くべく息を吐き出す。
くちゅっ、と秘めやかな音を立てて先端を含まされる熱さに恍惚の笑みが浮かぶ。
熱を持って爛れた自分の肉壺を、はやくシンドバッドの熱根で掻き回して欲しいとさえ願う。
「ジャーファル、挿れるよ。」
「んんっ!」
優しい囁きと共に、呼吸を合わせるようにしてゆっくりと少しずつ圧倒的な質量が挿入される。
刹那、喉が反り返り、悲鳴が零れた。
手繰り寄せたシーツを握り締め、身体中が埋め尽くされるのでないかと錯覚するほどの恐怖に襲われる。
それでも、その苦痛の先に約束されている快楽がある事を知っているジャーファルは白い肌をしならせ受け入れるのだ。
なによりも、この繋がる瞬間がジャーファルにとって幸せだった。
シンドバッドで一杯になる。
シンドバッドに埋め尽くされる。
シンドバッドと一つになれる。
嬉しくて。
ただただ、それが幸せで。
与えられるのは魔力だけではなく、『愛』も与えられているのだと・・・
「ああっ、シン・・・ッひっ」
圧し掛かっていたシンドバッドの動きが早まり、硬く猛ったモノで最奥を突かれて悲鳴を上げてしまう。
彼が己の欲望を打ち付けるたびに感じるそれが痛みなのか快感なのか・・・正直、分からない。
けれど、肌と肌とが触れ合う音、獣のような息遣い、光る瞳の中に彼の欲望を感じて身体の中が熱くなる。
意識が朦朧として身体が火照るのは、きっと魔力を注ぎ込まれているからというだけじゃない。
ジャーファルはもっと自分の内部を掻き回して欲しくて、痛みに涙を零しながらも自分から腰を動かしていた。
シンドバッドに抱きついてすがりつき、あさましく求める自分が恥ずかしいのに・・・それでも、欲してしまう。
「あつい・・・から、だ・・・」
「ああ、お前のナカも熱い、よ・・・火傷しそうだ。」
何度も突き上げられ、泣きじゃくりながらもジャーファルの性器は張り詰め、揺れるたびに先端からトロトロと先走りの液を滲ませている。
シンドバッドの魔力を受け入れ、彼に犯されているジャーファルの意識が薄らいでいく。
限界が近い。
「・・・いいぞ、いけ。」
「ひぁっ!?ああぁ・・・!!」
最も深い体の奥を貫かれ、シンドバッドの許しを得たジャーファルは腰をビクビクと痙攣させながら一気に高みへと駆け上がった。
途端、腹の上に生温かい雫が垂れてくるのを感じる。
ポタポタと落ちてくるのは、自分の性器から吐き出される精液。
「ジャーファル・・・」
「ああぁっ、シン・・・シンッ!」
まだ欲を放っていないシンドバッドが苦しげにジャーファルの名を呼び、達したばかりの敏感な身体をさらに激しく揺さぶる。
ジャーファルの意識が飛びそうになった時、シンドバッドが息を吐いて精を弾けさせた。
「ぁ・・・あ、ん・・・」
シンドバッドの精と魔力が自分の中に染み込むのを感じて、ジャーファルは痺れる様な感覚の中、ついに意識を手放した。
意識が闇の中へと落ちていく瞬間。
『愛しているよ、ジャーファル』と静かに囁かれたのは、きっと、間違いなんかじゃない。
窓からそよぐ風が頬をくすぐり、うとうとしていたジャーファルは顔をしかめた。
微かに香る焚き付けの炎に鼻を鳴らして目を覚ます。
そういえば、今夜は宴が催されていたと覚醒しきれていない頭で思い起こした。
魔力を失ってしまい、接待もそこそこにして紫獅塔の自室にまでフラフラになりながら帰って来たのは宴も中盤に差し掛かる頃だった。
そこからベッドに座り込んで、しばらくしてからシンドバッドがやって来たはず。
宴がまだ完全にお開きになってはいない事と、夜明けにまではまだ時間がある事を考えれば、ベッドでの情事はそう長いものではなかったようだ。
抱かれた後、自分自身が眠ったのか気を失ったのか分からないが兎に角意識を失ったのは事実。
寸前に残る記憶といえば、身体のナカをグチャグチャに掻き回され泣きながら喘いでいた時の事だけだ。
それが、今は裸ではあるが綺麗に身体が清められている。
という事は、我が主の世話になってしまったという訳だろう。
その主を探して窓の方に目をやったジャーファルはバルコニーにシンドバッドの姿を見つけてフッと安堵にも似た溜息をついた。
ジャーファルは甘い痺れと鈍い疼きの残る身体を柔らかなシーツに包んでベッドから立ち上がると、素足のままゆっくりとした足取りで窓に歩み寄る。
シンドバッドはバルコニーに佇み、宴の席を見下ろしながら酒を飲んでいた。
その様子がどこか物憂げで官能的だ。
「・・・シン。」
事後の世話をさせてしまった事、恥ずかしい失態を見せてしまった事、そして飲みすぎだと言いたい事。
その外、沢山言いたい事はあるけれど、口をついて出てくるのは『シン』という名前の一言だけ。
「まだ休んでいろ。辛いだろう?」
頬に触れてくる指先が冷たいのは、酒を入れていた杯の冷たさのせいだろう。
頬と耳元を撫でられる冷たさに、ジャーファルは思わず身をすくませた。
それでも、この指先を愛しいと思う。
その指でもっと触れて欲しいと願う。
「・・・お願いがあります。我が王よ。」
気だるい身体を持て余したまま、ジャーファルは甘えるようにシンドバッドの掌に自分から頬をすり寄せ呟く。
「なんだ?言ってみろ。」
普段は手厳しい政務官が、こうして甘えてくるのは珍しく、シンドバッドは嬉しそうに尋ね返す。
「名を・・・私の名前を呼んで下さい。」
「名前?それだけでいいのか?」
裸の身体にシーツ一枚包んだだけの妖艶な姿で願うのは、他愛もない事だった。
もっと官能的で性欲を煽るような言葉を期待していたシンドバッドは少々物足りなさを感じる。
そんなシンドバッドの心情をすでに見透かしているジャーファルはクスクスと笑っていた。
「してやったり・・・って感じだな。」
ジャーファルが甘えてくるのは珍しい事だが、こんな子供みたいに笑うのはもっと珍しい。
それだけでも儲けものかと気を取り直したシンドバッドは、いつまでもコロコロと笑うジャーファルに向き直り、正面から彼を捕らえた。
海を渡る夜の風。
月明かりに輝く銀と紫の髪。
目の前に広がる町並みには宴の灯火。
愛する人のぬくもりを感じながら・・・
―――今、すべての願いが叶えられる。
fin