Dear
□分かっているから
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茜射す海の見える公園に、仁王はぽつんと一人ベンチに座っていた。先程近くの100円ショップで買ったシャボン玉をぷくりと膨らませている。夕日できらきら光って、でもすぐにぱちんと割れるのがとても儚げだった。
「阿呆ぉー…」
愛する妻に言った言葉なのか、自分自身に言った言葉なのか、それとも両方に言った言葉なのか。また新しくシャボン玉を膨らます。
「雅治くん」
空に飛び立つ前に、それは割れてしまった。後ろを振り向くと、珍しく息を切らした比呂が立っていた。
「比呂…」
彼女は無言で仁王の隣に座ると、きゅっと彼の右手を両手で握った。
「比呂?」
「…好きです」
「!」
じっと自分の目を見つめながら告白する比呂に、仁王の頬が赤く火照る。
「以前君は言っていましたね、母親は子どもにべったりだから構ってくれなくなるかもしれない、と。…すみませんでした」
「謝んないでくんしゃい。当たり前だって分かっとる、俺が子どもなだけ」
「雅治くん…でもこれだけは忘れないで。私だって、君を…愛してることを」
「…おん」
ごく自然に二人は互いの唇を合わせる。たった数秒の間であったが、離した後、二人はふにゃりと笑った。
「走ったらお腹がすきました、食事に行きましょう」
「ん?」
「君がいなくなった後丸井くんが来まして、これをくれたのです。なかなか予約がとれない、とうちの婦長が言っていました」
彼女が仁王の目の前に出したのは、この街で有名なイタリアンレストランの食事券だった。
「あいつらどうすんの?」
「丸井くんが面倒を見てくれています。今回は彼に甘えましょう…デート、して頂けますか?」
「!…それ普通男のセリフじゃろ…」
「ふふ」
「あぁもう…!御手をどうぞ」
そう言って自分の右手を差し出す彼に、彼女もはい、と返事をして自分の左手をそっとのせる。温かい光に照らされながら、二人はぎゅっと繋いだ手をそのままに歩いて行った。
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2が大人げない…!遅れて申し訳ありませんでした(/_;)気に入って頂ければ幸いです。リク有難うございました!m(__)m