Dear

□分かっているから
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「どう?」
「ええ…あのこちらのレモンのケーキは、もう少しクリームを少なくしてもいいかもしれません。その方が後味が爽やかになるかと思います」
「成程な…サンキュー!いつも助かるぜぃ」
「ブンちゃんこれおいしい!」
「おおそっか!今度また持ってくるわ。千比絽は?うまい?」
「うん、おいしい」


彼女の意見はいつも的確なので、丸井はいつも彼女に新作を試食させる。丸井の大好きな春乃は、彼が来てからずっとにこにこと隣にぴたりとくっついている。しかし表情の晴れない比呂に、丸井は声をかけた。


「仁王と何かあった?今いねぇみたいだけど」
「!…丸井くんには何でもお見通しなんですね」
「当然だろぃ。中学んときから相談のってたんだぜぃ?」


懐かしそうに話す丸井に、今までの経緯を説明する。丸井は顎を軽く押さえると、餓鬼だなあと呆れたように笑った。


「丸井くん?」
「んで、お前はあいつに好きって言えなかった訳だ」
「だって…今更恥ずかしいではないですか」
「まぁな…千比絽、春乃、これから俺ら大人の話すっから、ちょっと部屋で待っといて」
「え?」


提案する彼に、比呂と千比絽は疑問に思ったが、意図に気づいた春乃は「行くよ!」と千比絽の腕を引いて自室に駆けて行った。


「大人だなぁ…お前より鋭いんじゃね?」
「丸井くん!」
「悪ぃ…最近仁王に構ってなかったろ?」
「構ってないといいますか…最近複数の依頼を抱えているようで。休みの日ぐらい休んで欲しいのです」
「…それが原因!」


分からない様子の彼女の額に軽くデコピンをする。


「いたっ!」
「仁王はさ、お前に関してだけヘタレで臆病で、超のつくほど餓鬼な訳」
「!」
「まぁ比呂の恥ずかしいって気持ちも分かるけどさ、素直に甘えたりしてやれよ」
「丸井くん…」
「あ、そうだ」


ごそごそと自分の鞄をあさり、丸井は二枚の紙切れを彼女に渡す。


「お子ちゃまたちは預かるからさ、偶には二人で出かけてこいよ」
「っ…すみません!」


それを受け取るや否や、比呂は鞄を持ち玄関から飛び出していった。


「ブンちゃん終わったー?」
「おお!今日は俺んち行くぜぃ。俺の天才的料理とケーキ、ご馳走してやっから」
「「やったー!」」


実は丸井の料理が大好きな千比絽は破顔して喜んだ。春乃も勿論喜んだ訳だが、くいくいと彼のチノパンを引っ張る。


「ん?」
「なかなおりできそう?」
「…あぁ、あいつらなら大丈夫だろぃ。昔っからそうだったからさ」
「しかたないから、きょうだけはパパにゆずってあげる」


そう言って唇を尖らせた春乃の頭を、丸井はぐしゃぐしゃとかき混ぜた。
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