短編&中編

□孤高の武人と歴女(中編)
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彩は状況が掴めないでいた…




宗司「…ごほごほっ!…あぁもう!?…嫌な予感がしたと思えば案の定かよ!?」


秀元「…道影…こいつは偶然と呼ぶには…ちと無理があるぜ?…」


志乃「…ですね…まさに運命と呼んでも宜しいレベルだと思います…」


宗司「…お前らがそう思うのは勝手だ…だが…あそこに俺の居場所はもうないんだよ…」


山本「…あの…一体何が…」


宗司「…彩…お前に1つ聞く…秋元康から俺の事を聞かれた事があるか?」




宗司の問いに彩が固まる…




山本「…秋元さんを知ってるんですか?…」


宗司「…あぁ…知ってる…で?…」


山本「…えっと…ないですけど…」


宗司「…偽りはないな?…」




一切の濁りの無い真っ黒な瞳が彩の眼球を通し脳裏に直接呼び掛ける…




汝の言葉に嘘…偽りはないな…と…




山本「…っ!?…聞かれてないです!?…」




宗司はゆっくりと息を吐く




宗司「…ふぅ…なら一先ず安心か…」


秀元「…なぁ…道影…もう1度戻る気はないか?」


宗司「…何度も言わすな…AKB48に俺の居場所はない…」


志乃「…ですが…水夏ちゃんとの約束もありますでしょう?…」


宗司「…俺が居なくてもAKB48はもう成功を収めている…それに…あっちゃん…呼ぶ資格はないか…
   前田…高橋…平嶋以外のメンバーからは嫌われてるんだ…戻ったとて場の空気を濁すだけだ…」




彩は3人の会話を黙って聞いていた…でも…おかしな単語が飛び交っている…




山本「…(…居場所?秋元さん以外にも前田さん、たかみなさん…そして平嶋さんを知ってる?
   でも…他のメンバーからは嫌われてるってどう言う意味だろう…)…あの!道影さんとAKBさんって…」


秀元「…っと…彩が居たのを忘れてたな…知り合いって事さ…道影…彩に話してやればどうだ?」


宗司「…断る…何故話す必要がある?…」


山本「…(…凄く悲しそうな顔をしている…道影さんとAKBさんの間に一体何が…)…」


秀元「…道影…お前さん気付いてるか?…いや気付いてる訳ないか…」


宗司「何がだ?」


志乃「…たまにですがAKB48を追ってるのです…街中のポスター…CMで流れている楽曲などをですよ…」


秀元「…気になるんだろ?…今現在活躍しているAKB48がよ…」


宗司「…だからって話す必要はない…アレは迂闊に喋って良い内容じゃないのを知ってるだろう?」


秀元「…勿論知ってるさ…だが俺らとしてはお前さんにAKBの仕事に戻って欲しいのさ…
   あの頃のお前は…物凄く楽しそうだったぜ?やりがいがあるってな…」


宗司「………」


山本「…(…まただ…悲痛な顔をしてる…それに…AKBの仕事?…どう言う事?…
   道影さんはAKBさんのスタッフさんだったって事?…)…」


宗司「…だが…何故そこまで彩に話す事に執着する?…」


秀元「…さっきも言ったが…この出会いは偶然として収めるには、ちと無理があると思わんか?…
   俺が思うに…多分…お前は近々AKB48の元に戻る気がする…」


宗司「…止めろ…秀元…お前さんの勘は異常なほど当たるんだ…」


秀元「…そうなった時、内部に事情を知る人間が居た方が何かと心強いと思わんか?」


宗司「…お前の中で戻る事が確定してる様だが戻る気はない…
   ゆえに教える必要は「聞かせて下さい」…何?…」




宗司の言葉を遮ったのは彩である…




山本「…聞かせて下さい…何故道影さんの様な武人がAKBさんと仕事…ううん…そんな事はどうでも良い…
   それより聞かせて下さい…何故…"悲しい"表情を…浮かべているんですか?…過去に何があったんですか?」


宗司「…悲しそう?…それは彩の気のせいだろ…俺は今の生活が楽しいんだ…」


山本「…そんなの嘘です!?…気付いてないと思ってるんですか?…声が震えたのも判った…
   遠い目をしたのも判った…ほんの一瞬だったけど悲しい表情をしたのも判った!?」




彩の声が道場内に響く…そんな彩を見て驚愕した顔をしてるのは麻儀夫婦である…




秀元「…馬鹿な…彩は…道影の表情を読めるのか…となると…道影を救う事が出来るかも知れん…」


志乃「…私も驚きました…道影様の真の表情を読めるのは水夏ちゃんと翡翠ちゃんぐらいですからね…」




彩は真っ直ぐ宗司の瞳を見つめる…だが宗司は…ゆっくりと立ち上がり出口へと歩き出す…




山本「…っ!?…道影さん!?…」




彩の叫び声に宗司が歩みを止める…そして…




宗司「…秀元…後は…任せる…俺は…部屋に居る…事が済んだら呼びに来い…」


秀元「…あぁ…判った…」




そう告げると宗司は再び歩き出す…すると再び立ち止まり…そして…




宗司「…聞きたいのなら秀元から聞け…それと…秋元さんに俺の存在を絶対に明かすな…但し…明かせば
   …俺はもう2度と彩の前には現れない…そして…この事が世間に出れば…AKB48は…消滅するぞ…」


山本「…え…」




そして宗司は道場を去って行った…




山本「…一体何が…それに…あの表情…あんな顔…よほどの事がなければ作れない…」


秀元「…にしても良く気付いたな…普通は判らんのに…」


山本「…あんな顔をしてたのに秀元さんは気付かなかったんですか?…」


志乃「…彩ちゃんしか気付いてませんよ…そもそも特定の人物しか道影様の表情は読めないのです…」


秀元「…さて話すには話す…だがさっきあいつが言った通りだ…冗談ではなく…明かせば2度とあいつには会えない…」


志乃「…そして…最後に仰ったAKB48が消滅してしまうのも現実の物となりますよ…」


秀元「…聞いた内容を絶対外部には出すな…良いな?…」


山本「…判りました…」


秀元「…これから話す事は5年前に実際に起こったAKB48の黒歴史だ…」




※黒歴史を伝えました(但しこの時まだ全1期生が真実を知っているとは知らない)※




山本「………」




彩は涙を流し何も喋れないで居た…正確には壮絶な話の内容に声が出せないが正しいか…




志乃「…これがAKB48に隠された秘密…」


山本「…これは…本当に起こった事なんですか?…」


秀元「…そうだ…ただ…恐らく実際の内容はもっと酷いはずだ…」


山本「…どう言う事ですか?…」


秀元「…この話の情報源が道影だからだ…あいつの性格上どんな状況でも妹分を悪く言うとは思えんからさ…」


志乃「…ですが…この話でも聞きだすのは大変だったのです…」


秀元「…だな…自分の事を話したがらない男だしな…」




彩は涙を拭き、深呼吸した後に口を開く…




山本「…ところでさっき違和感を感じたんですが…額にあるバンダナ…じゃああれは…」


秀元「…飛び降り自殺の際に出来てしまった傷を隠してるんだ…」




ギリッ… 彩の口元から歯軋りが聞こえる…




志乃「…彩ちゃん…メンバーの方を憎んではいけませんよ…彼女達は真実を知らぬだけなのですから…」


山本「…でも!?…」


秀元「…言いたい事は判る…だが納得しろ…それに道影が自分で策を考え耐えられなかっただけの話だ…」




確かにそれだけの事である…でも…それで片付けるには内容が酷過ぎるのだ…




そんな中…秀元は彩にゆっくりと問い掛ける…




秀元「…彩…お前に頼みがある…」


山本「…頼み…ですか?…」


秀元「…あぁ…近々道影は必ずAKB48に戻る…だから道影を支えてやってくれ…」


山本「…何を根拠に戻ると…それに今日感じた限り道影さんの性格上戻る訳が…」


志乃「…科学的根拠は無い…ですが秀元の勘は当たるのです…異常なレベルで…
   麻儀家は直感に優れているのを知ってるでしょう?」


秀元「…俺と彩の付き合い長い…長いからこそ聞くが…お前は…道影に憧れと同時に異性として気になってるな?」




そんな秀元の言葉に顔を赤くする彩…そして反論しようと秀元の方を向くが…秀元の真剣な表情に息を呑む…




そう…彼の瞳は先ほど彩を同じ話題でからかっていた時とはまるで違う瞳だったからだ…




だから彩は黙ってゆっくりと頷いた…




秀元「…やはりな…頼む…あいつを…道影を支えてやってくれ…あいつの表情を読む事が出来る彩なら出来るはずだ…
   頼む…誰かが支えてやらないといけないんだ…じゃないと…あいつは"また"壊れてしまう…」


山本「…どう言う意味ですか?…」


秀元「…そのままの意味だ…あいつの心はすでにズタボロなんだよ…」


山本「…ズタボロって…さっきの話以外にも何かあったんですか?…それ以前に誰か支えられる人は居なかったんですか?」


志乃「…先ほども言いましたが道影様の表情を読む事が出来る人間は少ないのです…そして私達が知っている人物は2名…」


秀元「…実の妹である水夏と…あいつの番である翡翠のみだ…」


山本「…え…番…」




秀元の言葉に彩の思考が停止する…番…と言う事は宗司は結婚していると言う事になるからだ…




山本「…じゃあ私の出る幕はないじゃないですか…翡翠さんが「無理なんだよ」…え?…」


秀元「ここから先は道影にも内密に頼む…翡翠はな…もうこの世にはいないんだ…」


山本「…いないって…っ!?…まさか!?…」


志乃「…水夏ちゃんが亡くなる1年ほど前に…道影様の御両親と一緒に亡くなってるのです…」


秀元「…今現在あいつの表情を読む事の出来るは俺等が知ってる限りでは彩だけだ…」




秀元は目を閉じ表情を歪め…ゆっくりと話し出す…




秀元「…あいつは本来心が強い男だ…両親の死…翡翠の死…そして…水夏の死…ここまでは何とか強靭な精神力で
   耐えられた…だが…あの事件で心は壊れちまった…俺らも驚いた…"あの"道影が自殺など有り得ないからだ…
   あれから随分時が経ち…道影は立ち直ったと言う…だが…1度壊れた心がそう簡単に治る訳がねぇ…」


山本「…それが…ズタボロって理由ですか…」


秀元「…そうだ…恐らく…何か些細な事でも壊れる可能性があるんだ…」 


志乃「…だから支えてあげて欲しいの…でもNMB48と言う事は…恋愛禁止ですね?…」


山本「…はい…そうです…でも片思いは良いので多分大丈夫です…」


秀元「…クビになる様な無理はしてくれるな…もし…クビになった原因に自分が絡んでいると道影が知れば…」


志乃「…その事でも壊れる可能性が出来てしまう…だから非常に困難な事だとは思います…」


秀元「…すまないが頼む…あいつは良い奴なんだ…親友としてあいつがこれ以上傷付く姿を見たくない…」




そう言うと麻儀夫妻は彩に頭を下げた…そんな麻儀夫妻に対して彩は…




山本「…頭…上げて下さい…もし道影さんがAKB48関連のスタッフさんに戻るのであれば
   出来る限りな事はします…ですが…NMBとAKBは一緒にいる事が少ないので…」


秀元「…一緒にいれる範囲で良い…たまにガス抜きが出来れば大丈夫だろうしな…」


志乃「…ですね…さて…この話はここまでにしましょう…」


秀元「…そうだな…念を押すが外部には決して漏らすな…」


山本「…大丈夫です…私を信用して話してくれた秀元さんに仇で返す様な事はしません…」


秀元「…そう言ってくれると助かる…さて…場が暗くなっちまったな…
   折角来たんだ彩に俺と道影の模擬戦を見せてやろう…
   あいつの気晴らしにもなるだろうしな…志乃…頼めるか?」


志乃「えぇ。呼んで来ますね」




そう言うと志乃は道場から出て行った…


 
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