先生の日常観察_
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今すぐ管理人室に来いと言うと一方的に切られた電話に、何なんだと文句を垂れながら行くと、そこには缶ビールをスタンバった茗子が待っていた。
「飲むなら飲むって言えよ」
「それくらい分かってくれると思ったんだけどなぁ」
「分かるか」
そう言い捨ててビールを煽ると、控え目な笑い声が聞こえてきた。
「…何だよ」
「ん?随分丸くなっちゃってって思って」
「変わんねえよ…」
「変わったって。私が言うんだから間違いない」
「あぁ、そうかい」
「でも、あんたがあんなに良い先生してるなんて思いも寄らなかったわ」
「あ?」
その言葉に思わず眉間に皺が寄った俺に、茗子は楽しそうに笑った。
「随分慕われてるじゃないの」
「そうか?」
「それに、表情も柔らかくなったしね。昔はも〜っと生意気な顔してたのに」
「イテェよ…」
頬をつねってくる茗子に止めろと促しても、丸無視。
「でも、根本は変わってなくて安心した」
「根本?」
そう問うと、漸く俺の頬を解放した茗子は歳相応の柔らかい笑みを浮かべた。
あぁ、こいつってこんな顔して笑うようになったんだ…。
「自分の事しか考えてない自己中心的な振りして、でも結局周囲の人間を放っておけなくて、ミスも失態も嫉妬も全部自分が被る奴。結局み〜んなあんたに惹かれちゃう」
「そんな事ねえよ」
「そう思うのは本人ばかりってね」
「…」
あ〜、何だよ。何かすっげー恥ずかしいし居心地ワリィんだけど…。
いつもいつもそうだ。こいつの前では俺のペースは完全に狂わされて、こいつのペースに持っていかれるんだ…。変わってねえな…。
あ、でも…
「お前も変わったよな」
「そう?」
「昔は男みてぇだったのに、すっかり女らしくなって…」
茗子は女子にしては背が高く、ショートカットのボーイッシュ。当時は女子に良くモテていたと記憶している。それはもう男共が嫉妬するくらい。女子が言われて喜ぶ“可愛い”とかいうより、こいつには“格好いい”という言葉が先行していた。
「私だっていつまでも子供じゃないよ」
「そうだな…」
さっきのお返しとばかりに、今度は俺が茗子の顎を掴んで引き寄せた。
「綺麗になったじゃねぇか」
「…」
ポカンとしたまま固まってしまった茗子に、喉の奥で笑う。
「今はアホ面だけど」
「あんた…そうやって生徒に手を出してるんじゃないでしょうね?」
「出してねえ!」
何でそうなるんだよ!
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