エンジェルシリカ_

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最早、仁王と那貴専用になって来つつある屋上に、いつもの二人が居た。


「仁王、今日はどうするの?」

「どうするかのう」

「…抜け出す?」

「何処にぜよ」

「ん〜…」


会話が途切れ、暫し訪れた沈黙。それを破ったのは那貴だった。


「におー」

「何ぜよ」

「またピアスを開けようと思うんだけど」

「そうなんか」

「この二つはピアサーで開けたんだけど、今度は安全ピンで開けようかなって思うの」

「二つと同じくピアサーにしときんしゃい」


そう言って笑う仁王のネクタイを引いて自分に引き寄せる。


「那貴?」


突然の事に呆気に取られた顔の仁王を那貴は鋭い目で射抜く。


「何か変だと思っていたけど、やっぱりね」

「那貴?」

「あんた誰?」

「何言うてるんじゃ。俺以外に誰だって言うんじゃ」

「私のピアスホールのひとつはね、仁王が安全ピンで開けたの。ピアサーじゃない」


那貴の言葉に仁王は表情を消した。それに怯む事無く睨み続ける。


「一体誰なの?何のつもりで仁王の振りをして私に近付いたの?」


仁王は小さく溜息をついて自分の髪に手をやる。


「やれやれ。意外に頭のキレる方ですね。少しあなたを見くびっていたようだ…」


銀の下から現れた茶色。仁王そっくりの鋭い目は眼鏡に縁取られた。


「こうしてお話をするのは初めてですね。私は柳生比呂士と申します」


聞き覚えのある名前に那貴の表情は益々渋くなる。


「柳生…?まさか仁王のパートナーの?」

「はい。
あなたと仁王くんの関係を疑念を抱いたもので、仁王くんを監視するためにパートナーになりました」

「!」


目を見開く那貴に柳生は喉の奥で笑う。


「いけませんよ?あなたの秘密はあなただけのモノじゃないのですから。簡単にバラしては」

「あんた一体…」


柳生と距離を取り、警戒心を露わにする那貴に柳生はユックリと近付いて行く。


「だけど驚きました。景吾様以外の他人には興味を示さなかったあなたが仁王くんと親しくなるなんて」


背中に当たった壁に逃げ道を失った那貴の顎を掴み上げる。
どこか仁王に似た顔だが、仁王のような温かさは無い目。


「私はあなたをずっと見て来たんですよ?」

「え…?」

「私は跡部の家の者です。那貴様」


ダブルスパートナー≠信頼出来る人間。





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